第2章 ケモノで、バケモノ。
サッチが持ってきたメシをゆっくり食べる少女は、この短時間で大分人間らしい表情が出来るようになった。
「そういえば、お前名前何て言うんだ?」
サッチがそう聞くと、少女は食べる手を止めてきょとんとした顔で首を傾げる。
「まさか…名前無い、のか?」
名前という物がよくわかっていないのか、少し難しそうな顔をして考え込んでしまった。
そしてもう1つ、気になっていた事がある。
「…お前、喋れないのかよい?」
怪我の手当をする時に、身体に異常箇所の見落としが無いかどうか確認したが、声帯に異常は無かった。
森でも言葉は無かったが唸り声は出していたし、喋れないとしたら単に言葉を知らないか、精神的な理由で封じてしまっているのかのどちらか…恐らく状況から見て後者であろうと予測はしていた。
「そういやまだ俺らの名前言ってなかったな!俺はサッチ、こっちがマルコだ」
何とか口を開いて名前を復唱しようとしたものの、聞こえてくるのは空気が出てくる音だけで、喉に手を当てながらシュンとしてしまった。
「まぁ多分声はその内出るようになる…と思う。だからあんまり焦るな。ゆっくりでいいって、言っただろい?」
小さくコクンと頷いて顔を上げると、何か見つけたのか急に部屋の隅を指さした。
不思議に思ってその方を向くと、そこには医学書や図鑑がパンパンに詰まった本棚。
「お前、文字は読めるのか?」
そう聞くと小さな頭をコクコクと上下に振って、立ち上がって本棚の方へと歩き出し、並んだ本の背表紙を眺めながら何か考えているようだった。
「…何か読めそうなのあるかよい?」
と言ってもこの本棚…というか恐らくこの船全体を探しても、子供が簡単に読めるような本は無いだろう。置いてあるのは医学書以外だと海図、新聞、手配書等、子供にはまだ少し難しい内容の物ばかりだ。
少女は一冊の本を手に取り、それを抱えて俺達の方に戻ってくると、床にその本を広げて何かを探し始めた。
「お前こんな図鑑持ってたのかよ?」
「いや、俺も今の今まで忘れてたよい…」
しばらくしてページをめくる手が止まり、俺達に向けて見せながら、自分の事を指さした。
「…ネコネコの実、モデル"ホワイトタイガー"」
少女が広げたのは"悪魔の実図鑑"。
そして、自らを悪魔の実の能力者だと告げてきた。