第2章 ケモノで、バケモノ。
気付いた時には、私の周りには"怖い大人"と"大勢の子供"しかいなかった。
毎日ご飯は出たけど、まずくて食べたくないと言ったら無理矢理食べさせられたし、言う事を聞かなければ怒られて、酷い事を言われて叩かれた。
最初は抵抗する子もいたけど、段々そんな事する気力も無くなって、結局みんな怖い大人の言う事を聞くしかなかった。
その内"元気になる薬"を腕から入れられる様になった。
周りにいた子供も減って、部屋には私を入れて3人だけになった。
ある日、昨日まで普通だった他の2人が急に唸って、噛み合って、殴り合いをし始めた。
巻き込まれない様に部屋の隅で震えて、それからどの位経ったかわからない頃には、2人とも血塗れで動かなくなっていた。
血を見た瞬間に心臓がドクンと大きく動いて、気付いたら2人の血を吸っていた。
"君が最後まで残った優秀な子だね。"
残った?優秀?この人は何を言っているんだろう。
"まだまだ改良しないといけない所はあるけど、これなら良い例として報告出来そうだ"
その時になって、ここに居たら死んでしまうかもしれないと気付いた。
それからは必死だった。
運良くその施設から逃げ出した後も、また捕まらないように色んな船に忍び込んで、色んな島に逃げた。
そしてこの島に辿り着いて、森で変わった果物を食べてしまった事で、私は完全に人間じゃ無くなってしまったのだ。
でも、この人は私がこんなバケモノだとわかっても、ちゃんと"人間"として接してくれた。今も話し掛けて、助けようとしてくれている。
「…このままでいいのかよい?」
…いやだ。もういやだよ。
「今のままがイヤだと思うなら、お前が変わらないとダメだよい。少しずつでいいんだ…出来るか?」
…私が変わる?沢山の人を傷付けたけど、まだ変われる?
変わったら、もう1人で怯えて暮らさなくていい?
目の前にいるこの人だけが、唯一の希望。
いいのかな、大丈夫かな。
わからないけど、でも、それでも。
「…そうか。なら、俺も少しは手伝ってやるよい。」
変わりたいって、思った。助けて欲しくて伸ばした手は震えていたけど、ちゃんと受け止めて笑ってくれた。
貴方の事を、信じさせてくれますか?