第2章 ケモノで、バケモノ。
白い虎と化物の正体が幼い少女だとわかった訳だが、よく見れば妙に怪我が多いし、顔色もあまり良くない。
このまま置いて帰る訳にもいかず、一先ず船へと連れ帰ったのだった。
「あー…俺はお前に危害を加えるつもりはないから安心しろよい。取り敢えず怪我の治療はしておいた。あと栄養失調気味だったから点滴もさせて貰ったよい。体力が充分回復するまで少し時間かかると思うから、それまでここで休んでいい。」
船に戻り医務室のベッドに寝かせて怪我の治療をした時に見た小さな体には、明らかに人為的な傷跡や注射の痕が何箇所も残っていた。
あと気になる所と言えば…
「お前、能力者だとしたら一体何の実を食べてそうなったんだよい?」
悪魔の実。俺もそれを食べて不死鳥の力と引替えに海に嫌われカナヅチになった内の1人だ。
恐らくコイツの"白い虎"になる能力と"吸血鬼"になる能力、どちらかは悪魔の実の能力でほぼ間違いないだろう。だが…
「悪魔の実ってのは2つ食べる事は出来ない。2つ食べると体が飛び散って死ぬって言われてるからなァ…だからお前が2つも妙な能力を持ってる理由がイマイチわかんねぇんだよい。」
部屋の隅で毛布にくるまっている少女の前に腰を下ろして、なるべく目線を合わせながら声を掛けた。
「言いたくないなら言わなくてもいい。だが、せめて自分の能力位はコントロール出来るようにならないと、いつまでもこの状況は変わらないよい。」
その言葉に少女がピクっと反応を示し、毛布の隙間から覗く瞳には怯えに似た色が見えた。
「…このままでいいのかよい?」
大きく丸い碧い瞳は揺れて、光の影が溜まっていく。
「今のままがイヤだと思うなら、お前が変わらないとダメだよい。少しずつでいいんだ…出来るか?」
気付くと少女はポロポロと雨粒のような涙を静かに零しながら、毛布の裾から恐る恐る手を伸ばし、俺の手に触れる。そして震えながらも小さく頷いた。
「…そうか。なら、俺も少しは手伝ってやるよい。」
そう言って小さな頭を撫でてやると、毛布にくるまったまま抱き着いてきた。
急に抱き着かれた事にも驚いたが、少女の年相応の表情が見れた事に少し安堵している自分には更に驚いた。
そしてこの後、部屋に食事を持って来たサッチはこの光景を見て驚きで固まり、食器を落とすのだった。