第2章 ケモノで、バケモノ。
"さぁこっちへおいで。一緒に食事しよう"
行きたくない。キライなものしかない。
"美味しいお菓子や飲み物もあるよ"
おいしくない。苦くてまずくて、もう食べたくない。
"他の子はちゃんと言う事を聞いてくれるのに、どうして貴女だけ言う事を聞かないの?"
どうして言う事を聞かないといけないの、知らない人なのに。
"言う事を聞かないワガママさんには、ちゃんとお仕置きしないとね"
いやだ、こないで、ちかよらないで
"こんな事、私達も本当はしたくないんだよ?でも仕方ないよね、言う事を聞いてくれない君が悪いんだから"
いたい、やめて、くるしい
やめて、やめて、やめて
たすけて。
目が覚めたら、知らない場所だった。
いつもの暗い洞窟じゃない。明るくて、全身が何だかフカフカしてあったかい。
ツンとする匂いには覚えがある。近くに誰の気配もない事を確認してそっと起き上がると、自分の手足には包帯やガーゼがあちこち貼ってあって、腕には細い管が繋がっている。
そうか、この匂いであの夢を見たんだ。
忘れたい事。思い出したくない事。
所でここはどこなんだろう?なんでこんな所にいるんだっけ?
曖昧だった記憶を何とか手繰り寄せて思い出そうとしていると、遠くから誰かの足音が近付いている事に気付いた。
(…逃げなきゃ…!)
そう思って焦って動いたからか、何か近くにあった物を倒してしまったらしい。
ガッシャーンという音に驚いて、起き上がった場所から転げ落ちてしまった。
するとその足音は早まってすぐに近くまで辿り着き、バンッと扉が勢いよく開いた。
「…!大丈夫かよい!?」
……誰だっけ、この人。見た事ある。
「ベッドから落ちたのか…怪我してねぇか?」
一緒に落ちたフカフカの布団にくるまって、その隙間から相手の方を見る。
目の前で声を掛けてきている人の首筋を見ると、私の手足にあるのと同じガーゼが貼ってあった。
そうだ、私はこの人の……
「…立てるか?まだ安静にしてた方がいい。もう少し寝てろよぃ」
差し出された手を思わず払うと、びっくりした顔をして私を見た。座り込んだまま後退りする。体がガタガタ震えて止まらない。
私、またバケモノになっちゃったんだ。