第2章 ケモノで、バケモノ。
綺麗だと、素直にそう思った。
その少女の肌はとても白く、地面に届きそうな程長くて色素の薄い髪は月明かりに照らされて時折銀色の様にも見えた。
青白く輝く瞳は、よく見ると緑にも見える碧色。
これだけなら美しく儚げな少女という印象を持てるのに、鋭い目付きと口元や服に付いた赤黒い血のせいで、獣と呼ばれるに相応しい雰囲気を纏っていた。
「…お前がこの森の"白い虎"かよい?」
睨み合いを続けながらそう訊ねても少女は何も言わず、まるで"早く立ち去れ"と言うように鋭く睨み続け、唸り声を出すだけ。
すると、段々少女の姿が白い虎へと変化していった。
まだ小さい小虎ではあるが、鋭い牙と爪、そして逆立つ毛を見れば威嚇しているのだとすぐに分かる。
「おい、どうすんだよマルコ…一旦立て直してからまた来た方がいいんじゃね?」
「…いや、今ここで終わらせるよい。」
「は?どうやって!?」
すると洞窟の岩の上から飛び降りてきた小虎の姿の少女は、俺の方に向かって思い切り体当たりをしてきた。
子供だと少し油断していたが、向こうが手加減する筈も無く、突然身体にくらった衝撃を堪えられずに体勢を崩し背後にあった木にぶつかり座り込む。
それを狙ったのか、体勢を崩した俺の上に馬乗りになると少女の姿に戻り、鋭い爪を二の腕に食い込ませ、俺が怯んだ一瞬の隙に首元に思い切り噛み付いた。
流れ出る血が、目の前の少女に吸われていく。
「っぐぁっ…!!」
「マルコ!!」
「サッチ今だ!!叩け!!」
「っ…悪ぃな嬢ちゃん!」
その意味をすぐに理解したサッチは、俺の首筋に顔を埋めて血を吸っている少女に背後から手刀を食らわせた。
「!?……っ…」
すると少女から全身の力が抜け、ダランと俺にぶら下がる格好で気を失い、首元に刺された牙も抜けていた。
「おい大丈夫か!?」
「あぁ。血もそこまで吸われてないし、これくらいの怪我自分でどうにか出来る。」
それを聞くとサッチは安心したのか、力が抜けたように俺の前にしゃがみ込んだ。
「まさかホントに化物の正体は吸血鬼で、白い虎でもあって…あーもうどこからツッコめば良いんだよ…」
「ホントになァ…」
2人で項垂れたままいる訳にもいかず、一先ずはこの白い虎であり吸血鬼でもある少女を船に連れ帰る事にした。