第1章 噂話、の筈だった。
「で?化物調べは順調か?」
順調かどうかと言われれば正直順調とは言えない。わからない事が多すぎる。
「この後、一度例の洞窟とやらに行ってみようと思う。それが一番手っ取り早い気がするしなァ」
今回はそもそも実在すら不明な怪物なのだから、文献や人から聞いた話だけで調べるなんて鼻から無茶だったのだ。
「え、じゃあ俺も一緒についていってもいいか?なんか面白そうだ」
「てめぇ…遊びに行くんじゃねぇんだよい…」
「わーかってるって!ちゃんと俺も一緒に調べるから!な!決まり!じゃあ洗い物終わったら一緒に行くから、それまでコーヒーでも飲んで待っててくれよ!」
そう言うと俺の前にコーヒーを置いて、物凄いスピードで洗い物を片付け始めた。
明らかに遊びに行く気満々じゃねぇか。鼻歌聞こえてるぞ。
でも1人で行くより人数は多い方が色々と調べやすいだろう。こうなったら扱き使ってやる。
そうして深夜。村人達もみんな寝静まった頃、俺とサッチの2人で噂の森へと向かった。
「こりゃ中々雰囲気あるなぁ…」
「今更ビビってももう遅いよぃ…行くぞ。」
森に入ると勿論辺りは真っ暗で、俺達が持っているランプと、月明かりだけが頼りだった。
今日は満月だが、少し雲が出ていて時々月明かりも消えてしまう。
元々少し視力が悪い上にこの暗さだと、足元に注意しなくては転ぶかもしれない…と思ったその時だった。
「うわっっ!?」
少し離れて隣を歩いていたサッチが急に大声を上げた。
「どうした!?」
慌ててサッチの居る場所へと近付いてランプを掲げると、そこには血塗れのウサギの死体が転がっていた。
「このウサギ、まだ温かいし血も固まってない。さっきまで生きてたんだろ…それとココ、見てみろよマルコ…」
そう言ってサッチが灯りを照らした先には、ラグにあったのと同じ2つの赤黒い穴。
「ホントに居るのか?吸血鬼ってヤツが…」
信じられないと思いながらウサギの傷口を呆然と眺めていると、今度は背後から何かの気配と鋭い視線を感じた。
流石にサッチも気付いたようで、背中合わせに立ち上がり、注意深く周りを見回す。
一瞬。
草むらが僅かに揺れたかと思うと、すぐ側を風が吹き抜けた。
何が起こったのかわからず後ろを向くと、暗闇に並んだ2つの青白い光が、じっと此方を見つめていた。