第1章 噂話、の筈だった。
"【吸血鬼】
命の根源である"血"を栄養源とする不死の存在。主に夜に活動をし、鋭い牙を獲物に刺して血を吸う。
血を吸われた者は全身の血が抜かれて死に至る、若しくは吸われた者もまた吸血鬼となり別の生き物を襲うようになる。
陽の光が苦手で、身体に浴びると灰になり崩れてしまう。
実在しているかどうかは、未だ不明である。"
ラグから借りた本をパタンと閉じて、デスクの上に置いた。
結局あれからラグに頼み込まれ、最終的に化物について調べる事を了承したのだった。
もし自分も吸血鬼になって村人を襲ってしまったらと思うと、不安で最近は夜もあまり眠れなかったらしい。そして極めつけに、あの友人との喧嘩。
相談するにも内容が内容だし、精神的にも限界が近かったんだろうと思うと断るに断れなかった。
取り敢えず情報を整理してから調べる事を約束して、サッチと2人で船に戻って来たのだった。
「マルコ~メシ出来てるぞ~!」
ガチャっとドアを開けてサッチが部屋に入ってくると、扉の向こうから美味そうな匂いが一緒に流れてくる。
「サッチ、てめぇノックぐらいしろって毎回…あぁ、もうこんな時間かよぃ…わかった、すぐ行く。」
気付けば陽は完全に暮れて、外は真っ暗になっていた。
電気を消して部屋を出ると、デッキの方からは酒を飲んで盛り上がるクルーの声が聞こえるし、夕飯を食べ終えて夜の村へと出掛けるヤツらが集まって移動する足音もする。
周りが煩くしているのに、それに気付くことなく読書に没頭するのはよくある事だが、それは医学書や図鑑で調べ物をしている時。
つまりは船医としての仕事中だ。
(まさかこんな御伽噺に集中するとはなァ…)
すっかり固くなってしまった身体をほぐす為に大きく伸びをしながら歩く。身体の中からバキバキと音がするが、それが心地良い。
ついでに首や肩もほぐすと、食堂に着く頃には少し頭がスッキリした。
「他のヤツらはもう食べ終わってるから、あとは俺らで食っちまおうぜ」
「あぁ、そうさせてもらうよい。で、今日は何作ったんだ?」
「ビーフシチューとサラダとコンソメスープ!あと白飯もまだある。」
俺の前に2人分の食事を置いて、向かいに座ったサッチと少し遅めの夕食を取り始めた。