第81章 雨後
翌朝目が覚めると、寝室の中はまだ薄暗かった。
夕方から再び降り始めた雨は、日が変わってもシトシトと降り続いていたようで、静かな雨音が室内にも聞こえてきていた。
掛布に包まれた身体は、隣で眠る信長様の腕の中にすっぽりと囲われている。
頭の上で、信長様のすぅすぅという小さな寝息が聞こえている。
(ふふっ…信長様、よく眠ってらっしゃるみたい。お疲れだったのね。出逢った頃はあんなに眠りが浅かった方なのに……私と居て、こんなに安心して下さっているんだわ…)
私も同じだ。信長様が隣にいて下さるだけで、こんなにも穏やかな気持ちになれる。
どうしようもなく不安で、胸が締めつけられるぐらい苦しかった気持ちが、今は嘘みたいに穏やかになっていた。
そっと、お腹に手を当ててみる。
(ごめんね…心配ばっかりして。あなたが今、私のお腹にいてくれること、きっと、それだけで奇跡なんだよね。あなたは信長様の御子だもの…何も心配することなんてないよね)
心の中で話しかけながら、優しく撫でていたその時だった。
お腹の中が、ぐにゃり、と動いて……何とも言えない不思議な感触を感じた。
「!?」
(っ…動いたっ!? )
急なことに驚いてしまい、思わず身を起こしてしまった。
「…………んっ…しゅり…」
寝起きの少し掠れた声が妙に色っぽい信長様が、身動ぎしながら、ゆっくりと目蓋を持ち上げる。
寝惚け眼の少しとろんっとした紅玉の瞳が、私を探すように一瞬彷徨う。
(か、可愛いっ……って、見惚れてる場合じゃなかった!)
「信長様っ…子が…お腹の中の子が、動きましたよっ!」
「…………んっ?あぁ………」
まだ寝惚けてらっしゃるのか……いつもと違う、ゆったりとした反応に驚きつつも、信長様の手をグイッと引っ張って強引にお腹の上に乗せた。
「ほら、触って下さいっ!ね!」
「っ…………」
信長様の瞳が驚いたように見開く。力強い光が漲るその瞳は、うれしそうに細められた。
「動いたな」
「はいっ!うっ…よかった…うぅ…」
安心したら気が緩んでしまい、目蓋が震えて嗚咽が止まらなくなる。
「うぅ…っつ…っ、くっ…ひいっ、くっ…」
「朱里っ…泣くな」
「うぅ…だって…嬉しくてっ…うぅ…不安だったから…」
「まったく…勝手に不安がり、勝手に安堵して…貴様はいつまでも変わらぬな」