第81章 雨後
「…………え?」
(いつまでも変わらぬ、ってどういう意味?)
「結華の時もそうだったな。腹の中でなかなか動かぬと心配して、それが初めて動いた時、貴様は今みたいに大泣きしておった」
信長様は懐かしそうな顔をして、口元に笑みを浮かべる。
「………え?嘘ですよね、それ?」
「は?」
「いや、だって…結華の時は色々順調だったような気が……」
出産までの十月十日、これといった異常もなく穏やかに過ぎていった記憶しかない。
だから今回の懐妊と比べてしまって、何かと不安になっていたのだけど……それは、私の勘違いだったの?
「阿呆っ、俺が嘘など吐くわけがなかろうが…はぁ…まったく、貴様という奴は……」
「ええっ…じゃあ、本当に??」
「くくっ…喉元過ぎればなんとやら…だな。貴様は本当に飽きん女だ」
心底可笑しそうに、くくっ、と声を上げて笑う信長様の様子を見ていると、何だか自分自身がひどく恥ずかしく思えてくる。
(うぅ…恥ずかしい)
「っ……でも…やっぱりまだ不安です。望んで望んで、ようやく授かったこの子を、元気に産んであげられるだろうか、っ…此度は必ず男子を産まなければ、とそればかり考えてしまって……」
消え入りそうに小さな声で言ってから、信長様の逞しい胸元に、顔を隠すようにしてそっと擦り寄った。
「くっ…貴様は…本当に阿呆だな」
「えっ?」
「腹の子は、俺たち二人の子だ。元気に産まれぬわけがない。子の性別など、人の手ではどうにもならぬことだ。それとも貴様は……姫などいらん、とでも思っているのか?」
「そんなことっ…信長様の血を引く大切な御子です。男でも女でも、私にとっては大事な子ですっ!どちらでも、無事に産まれてくれれば、それだけで……」
「ならば、考えても詮ないことで思い悩むのは、やめておけ。
何があろうと、俺は貴様を守ってやる。貴様も結華も、産まれてくる子も、丸ごと全部、俺が守ってやるから…もう何も案ずるな」
「信長様っ…」
強く抱き締める腕は、逞しくて自信に満ち溢れていて、包まれているだけで、不安に押し潰されそうだった私の心は、じんわりと満たされていくようだった。