第81章 雨後
朱里は、信長の身体にきつく抱きついたまま離れようとしない。
周囲には兵たちもおり、チラチラと遠慮がちにこちらに視線を送っている。
いつもの朱里なら、羞恥心が先に立って人前で自分から抱きついたりなど絶対にしないのだが……
(俺は人の目など気にしないがな……好きな女に触れたい時に触れて何が悪い)
今も、愛らしい姿を見せる朱里に、早く口付けたくて堪らない。
いや、口付けだけでは足りない。
もっと触れたい…もっと深く……
こんなにも俺を求めてくれているのだ…存分に答えてやらねばなるまい。
縋りつく朱里の身体を一気に抱き上げると、そのまま大股で歩き出す。
「お、御館様っ?」
「後は任せたぞ、秀吉。報告は明日でよい。天主は当分の間、人払いしておけ」
「は、はぁ……」
呆気に取られたように立ち尽くす秀吉をその場に残し、信長の足は真っ直ぐに天主に向かう。
すれ違う家臣や女中たちは、みな何事かと驚く様子を見せていたが、そんなことは全く気にならなかった。
天主に着いた信長は、朱里を抱いたまま、迷うことなく寝所の襖を開ける。
そのまま一気に、抱き合ったままで寝台の上に倒れ込むように身を横たえた。
「っ…朱里っ…」
「の、信長様?あ、あの…やっ、ちょっと待って……」
「待たん」
「あっ、んっ…やっ、やだっ…」
首筋にちゅぅっと吸いついて、鮮やかな紅い華を咲かせる。
「やっ…私、そんなつもりじゃない、です…」
「………は?」
(何を言う…あんなに熱っぽく抱きついておきながら…)
「貴様、今更何を言うか…帰城して早々に、人前であんなに俺を求めおって…シたいのだろう?」
「ええっ!?ち、違いますよっ!もう、なんてこと言うんですかっ!」
朱里は真っ赤な顔をして必死に否定するが、信長には訳が分からない。
「今更恥ずかしがらずともよい。一晩離れただけで我慢できんとは可愛い奴だ。素直な貴様は好ましい」
耳朶を甘く食み、穴の奥へ、ぐちゅりと舌を差し込んでやる。
すっかりその気になった信長の手は、あっという間に襟元を乱し着物の中へと侵入している。
「んんっっ!やぁ…だめぇ…待ってぇ…」
「っ…朱里っ…」
甘い喘ぎを漏らしながらも、信長の手を必死になって引き剥がそうとし、頑なな抵抗を見せる朱里の様子に、信長もようやくこれは何か違うな、という気がしてきた。