第81章 雨後
「崖崩れで道が塞がれて…今宵は帰城できないって…そんなっ……」
早馬で届けられた秀吉さんからの文を何度も読み返し、私はその場で呆然と立ち尽くしてしまっていた。
夜には戻って来られるから大丈夫と、我知らず不安になる気持ちを抑えて、今日一日を何とかやり過ごしていたというのに………
(崖崩れって…大丈夫なの?お怪我とか、されてないよね?今宵は、野営なさるのかな…?)
考えても分からないことを考えてしまい、言い様のない不安に襲われる。
哀しくて寂しくて、目頭がじわりと熱くなってくる。
「っ…うっ…信長様っ…」
おかしい…私、どうしちゃったんだろう…信長様がいないだけで泣きそうなぐらい不安になる。
心が落ち着かなくて、不安で心配で、居ても立っても居られなくなる。
「しっかりしなきゃ…この子のためにも」
膨らみが目立ち始めた腹をゆっくりと摩りながら、心を落ち着かせようとするが、今度は、未だに何の動きもない腹の子の様子が不安で堪らなくなってくる。
家康が言うには、そろそろ胎動が感じられてもいい頃らしい。
結華を身籠った時も、このぐらいの頃に初めての胎動を感じたものなのに、この子はどうしてまだ動かないんだろう……
二人目とはいえ、先の懐妊からは年月が開いてしまっている。
うろ覚えなことも多いのに、不安で何かにつけて結華の時と比べてしまう自分がいる。
(大丈夫だよね?お腹、大きくなってきてるし…元気に育ってるよね?もうすぐ動いてくれる?)
心の中で呼びかけるも、後ろ向きな言葉しか出てこない。
ダメだ、こんなんじゃ……母親失格だ。
お腹の子のことも信長様のことも、信じられていない。
次々と襲ってくる不安な気持ちに、今にも押し潰されそうになりながら、私は文を握り締めたまま、しばらくその場から動けなくなってしまった。