第81章 雨後
被害を受けた村に到着した織田軍は、早速、復旧作業に取り掛かった。
瓦礫や流れ込んだ土砂の撤去
水浸しになった田畑の整備
民たちの汚れた着物を交換させ、温かい食べ物を配る
川の上流の堤防は、壊れた箇所を修繕しつつ、今回のような多い雨量にも対応できるようにと、新たに河幅を広げる工事を施す。
信長の指揮の下、秀吉がテキパキと部下に指示を出して作業を進めていくと、人手が多かったこともあり、復旧作業は順調に進んでいった。
「信長様っ…このように早くご対応下さり、誠にありがとうございます」
河幅の拡張工事の指揮をしていた信長に向かって、村の長は深く頭を下げながら礼を述べる。
「礼などいらん。土地が荒れ、民が病に倒れては、作物を作ることもままならん。作物を作れぬ土地は荒れていくばかりだ。
俺は、日ノ本を豊かな国にしたい。俺の大望を叶える為には、武士だろうが農民だろうが関係なく、額に汗して働いてもらう」
「ははっ…」
心酔したように信長を見つめる村長の姿を見て、傍に控える秀吉もまた、深く感銘を受けていた。
(さすがは御館様だ。的確な御指示に、圧倒的な存在感……御館様がおられるだけで、この場が引き締まる。この分だと、今日中にある程度の目処が立ちそうだ)
陽が落ちる前には、城へ引き揚げねばならない。
ある程度の目処が立てば、明日以降は自分達だけで何とかなるだろう、と秀吉が作業の進み具合を頭に浮かべていた、その時だった。
「申し上げますっ!」
近隣の見回りに向かわせていた部下の一人が、息を切らし慌てた様子で走り寄ってきて、信長と自分の前に跪いた。
「どうした、何があった?」
「はっ!恐れながら申し上げます。先程、この近くの道で崖崩れが起きた模様、落石が道を塞いでおります。
……城へと続く道です。落石を片付けねば、帰城が難しいかと」
「何だとっ!?」
「………怪我をした者はおらんのか?」
信長の声は少しも乱れず、冷静そのものだった。
「はっ、幸い、通行中の者はおりませんでしたので…」
「ならば良い。後ほど状況を確認するが……取り敢えず、こちらの作業が先だ。城へ戻れぬなら今宵はここで野営するしかないだろう?秀吉、そのつもりで準備しておけ」
「は、ははっ!」
御館様はこんな時でも御判断に迷いがないな、と秘かに舌を巻く思いの秀吉だった。