第81章 雨後
その日は結局、一日中雨が止むことはなく、翌日には領地の各所から雨による被害の報告が上がってきていた。
信長は、それらの報告に逐一目を通しては、秀吉や三成に対応を指示していく。
この地に城移りしてまだ一年にも満たないが、日頃から遠駆けや鷹狩りを精力的に行なっている信長にとっては、この辺りの地形は既に頭の中に入っている。
紙の報告書を見ているだけでも、どの辺りでどのぐらいの被害が出ているのか、大方の検討はついていた。
「御館様、今回最も被害が大きいのは、この村です。上流の川の堤防が決壊したらしく、土砂に流された家々も数多いとか。
早急に人を手配し、復旧に当たらせます」
「ああ、長引けば疫病が流行る恐れもある。家を失い、難儀しておる者もおろう。食事や着るものなどの物資も十分に手配してやれ」
「はっ!」
「秀吉、俺も現地に赴くゆえ、そのつもりで準備しておけ」
「はっ!……って、はぁ!?あっ、いや、あの…御館様自ら出向かれるなど……危のうございますっ!恐れながら、復旧の差配は、私にお任せ下さい!」
「ならん。つべこべ言わずにさっさと動け」
「し、しかしっ…」
「秀吉っ!」
「は、はぁ…」
困惑した表情を隠さない秀吉を無視して、信長はもう次の報告書に目を通し始めている。
言い出したら聞かないのが御館様だ。
確かに、御館様が赴かれれば、士気は格段に上がるだろうし、復旧の手も早まるに違いない。
ただ、周囲が混乱し人心も乱れた現地に御館様をご案内するのは、お傍にお仕えする者としては、些か心配なのだった。
御館様は、一度口に出したことを翻すような御方ではないから、最早、この視察をお止めすることは出来ないだろう。
(これは……何事も起こらぬ内に、早急に復旧の目処を立てなくてはならんっ…御館様に危険が及ばぬよう、お守りするのは俺の役目だからな)
信長の御前を退出し、一つ気合いを入れ直した秀吉は、早速に復旧策を練り始めるのだった。