第81章 雨後
「この分だと今日は一日雨だろう。特に急ぎの政務もないゆえ、たまには貴様と一緒に、ゆるりと褥の中で過ごすのも悪くない。朝餉もこちらへ運ぶように命じてある。朝餉の準備が整うまでの間、今少し、貴様に触れさせよ」
「んっ…あぁ……」
身体を抱き締める腕に力が籠り、鼻先が触れ合うほど近くに顔を寄せられる。
柔らかな唇が、チュッと軽い音を立てて重ねられる。
口づけだけで、昨夜の熱を思い出した身体は、口づけのその先を期待して、途端に熱く火照りだす。
「あっ…んっ…信長さま…」
強請るような甘い声が出てしまった私を、信長様は余裕たっぷりに抱き竦めて、くくっ…と悪戯っぽく笑った。
「可愛い声を出しおって……くっ…そんな風に煽られると我慢できなくなるっ…」
耳奥へ注がれるのは、信長様の昂りを表すように熱く、少し掠れた低い声で、その声だけで私の身体はズクリと疼き始める。
(あぁ…朝からこんなに甘い時間を過ごせるなんて…っ…信長様のこと、もっと欲しくなっちゃう……)
雨足は更に強くなっているようで、外の一切の音をかき消すようなざあーっという激しい雨音が聞こえていた。
雨戸を閉めているせいか、夜が明けたといっても寝所の中はまだ薄暗かった。
しばらくそうして布団の中で戯れ合いながら、二人きりの時間を過ごす。
こんな風に二人でゆっくりと過ごす朝は珍しかった。
日々お忙しい信長様は、朝も早くから起きて政務をこなされていることが多い。
それは晴れの日も雨の日も同じなのだが、今朝はどうされたというのだろうか…朝餉もここで二人きりで、ということは今朝は軍議もなさらないのだろうか。
「あの…信長様、ご政務に行かれなくてもよいのですか?」
腕の中に抱き竦められたまま、お顔を見上げると、すかさず額にチュッと口づけが降ってくる。
驚いて目を見張る私に、悪戯っぽい微笑みを返すと、抱き締める腕にキュッと力を籠める。
甘い……いつも以上に甘い……
「の、信長様っ?」
「ん?」
「あっ…そのぅ…今朝は随分と…お優しいですね」
「…………俺はいつも、貴様にはとびきり優しいつもりだが?」
ちゅっ、と目蓋に口づけが降ってくる。
「っ…それは、そう…ですけど…」
(………うっ…こんなに甘やかされると…何かやましいことでもあるんじゃ……って、考え過ぎ?)