第81章 雨後
欄干を打つ激しい雨音に、眠っていた意識が浮上する。
風も強いのだろうか、昨夜寝る前に閉めておいた雨戸が、ガタガタと激しく音を立てて揺れている。
(んっ…今朝は随分と雨風がひどいな…)
梅雨の季節に入り、雨の日が続くようになっていた。
時折、このような酷い荒天の日もあり、そういった日には信長様は、真っ先に民達の田畑や水路の様子を気にされる。
被害を受けた村を回られて、自ら復旧の指揮を取られたり、民達の要望を直接聞いたりもなさる。
雨の日だからといって、信長様にお休みはないのだ。
(今日も視察に行かれるのかしら…雨風が強いから心配だわ…)
そろそろ起きなくてはと、寝台の上で身を捩ると腰の辺りが少し重怠い。
安定期に入り、悪阻も落ち着いてからは、様子を見ながらではあるけれど、夜伽もできるようになっていた。
信長様は私を気遣って、いつも優しく抱いてくれる。
身籠ってからは、お腹の子を気遣って私のナカで達することも避け、時には私の体調を見て途中で止められるような夜もあった。
そんな風に私の身体を大切にしてくれることは、信長様の優しさと愛情を感じられて幸せではあったけれど、我慢させてしまっているのではないかと、申し訳なく思う気持ちもあった。
「朱里、目が覚めたのか?」
「信長様っ…」
寝所の襖を開けて颯爽と入ってきた信長様は、もうだいぶ前に起きておられたのだろう、さっぱりと身なりを整えておられた。
褥の上で、いまだ夜着姿のままの自分が恥ずかしい。
「っ…ごめんなさいっ…私、寝過ごしてしまって…」
慌てて夜着の乱れを直しながら起き上がろうとする私を制するように、信長様はするりと私の隣に滑り込む。
「の、信長様っ??」
「まだ起きるには早いぞ。今朝は雨だしな…こんな日はゆっくり朝寝しても構わん」
「やっ、でも……」
(信長様は、もう着替えておられるのに……)
「信長様…お召し物がシワになってしまいますよ…」
「ほぅ…それは俺に脱げと言っているのか?貴様、大胆なことを言うようになったな」
「ち、違いますっ…」
布団の中でふわりと抱き締められると、伽羅の香の上品な香りが鼻腔を擽る。
大好きな信長様の匂い