第14章 天女
「信長様、あちらの姫様は奥方様ですかな?
お美しくて、まるで天女のようですな!」
一人の村人の言葉に、皆一斉に私の方を見て、眩しそうに目を細める。
「くくっ、まだ奥方ではないが……
あの天女は…この信長の、最も大事な宝である」
「っ、信長様っ」
思いがけない言葉に嬉しさと恥ずかしさで下を向く私の顎をクイッと持ち上げ、唇を重ねる。
いきなりの口づけに目を白黒させる私の周りで、わっと歓声が巻き起こる。
村人たちが私達を取り囲み、一斉に囃し立てる。
「御館様っ!」
秀吉さんが一人焦っているけど、信長様は気にする様子もない。
(すごい…一瞬で村の人たちの心を掴んじゃった…)
少し離れたところにある水路の視察に向かう信長様と秀吉さんと分かれて、私は村の人たちに村の中を案内してもらうことになった。
「わぁ、あれは何ですか??」
村の中心の広場には大きな舞台が設えられており、観客席などもあって、綺麗に整えられていた。
「あれは今夜の祭りの舞台ですよ。この村の祭りは、作物の成長を祈り、先祖の御霊を供養するため、皆で一晩中踊り明かすのです。
今夜は色んな踊りを見て行って下され」
(何だかすごく楽しそうっ!)
「信長様は、我々百姓の話を直に聞いてくださり、『困り事があればすぐに申し出よ』と言ってくださいます。
どんな些細なことでも、疎かになさいません。
世間では信長様は『魔王』だなどと言われておられるようですが、この村では信長様を悪しく言う者はおりません」
村の人たちが心から信長様を慕ってくれていることが伝わってきて、嬉しくなる。
(一緒に来れてよかったな…)