第14章 天女
3日後、私達は安土を出立し、視察先の村へと向かっていた。
目的の村は安土からそう遠くなく、秀吉さん曰く視察の後、村祭りに参加しても日帰りできるだろうとのことだった。
私は今日は信長様の馬に一緒に乗せてもらっている。
本当は自分の馬に乗りたかったけれど、何故か今回は許して下さらず、信長様の前に抱き抱えられるようにして馬の背に揺られる。
信長様の胸に身体を預けているせいで、胸の鼓動が直に感じられて、心が忙しなく騒ぐ。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、時折、信長様が触れるか触れないかの微妙な距離で後ろから覗き込んでくる。
首筋に吐息がかかり、身体がかぁっと熱を孕む。
「っ、近いですっ、信長様!」
「ふっ、俺は何もしておらんが。どうしたのだ?」
突然、耳を甘噛みされ、耳の中に舌が入って来る。耳の奥を舌でつーっと撫でられ、ゾクゾクっと震えが走る。
「あっ、ふっ、あぁ…やぁん」
「くくっ、よい声で啼くな…唆られる」
「あー、ごほぉん。…御館様っ!
お戯れは程々に願います…民達が見ておりますゆえ」
秀吉さんの声にハッとなって、慌てて周りを見回すと、道の左右の田畑で作業をしている村人たちが、呆気にとられたような顔で私達の方を凝視しているのが窺えた。
「信長様が笑っておられるぞっ」
「あのような優しい顔をした信長様、俺は見たことないぞっ!」
「あの美しい姫様は誰だ?奥方様か?」
村人たちがヒソヒソと噂話をしているのが聞こえ、恥ずかしくて信長様から距離を取ろうと身を捩る。
「ふっ、もっと貴様に触れていたいが……今は我慢してやる。
……大人しくしておれ。そんなに暴れると落馬しても知らんぞ?」
「うぅ、信長様のいじわるっ」