第14章 天女
天主にて朝〜
「………以上が本日のご予定です。
それと…3日後に、先頃治水工事が完了しました村の視察の予定が入っております。
その日は村祭りがあるそうで、御館様に是非お越し頂きたい、と村の者から願い出がございました」
秀吉が朝の報告を読み上げるのを脇息に凭れながら、ゆったりと聞く。
隣では朱里が茶を立ててくれている。
朝の爽やかな空気の中で広がる、茶の芳醇な香りが心を安らかにしてくれる。
(俺にこのような安らかな時間が訪れるとは……
朱里が傍におるだけで俺の周りもこのように穏やかになるのか)
「分かった。
朱里、この視察、貴様も同行せよ」
「えっ、いいのですか?」
「御館様っ!まさかまた、二人だけで行かれるおつもりですかっ??それはなりませんっ。今回ばかりは、この秀吉、絶対にお供させて頂きますっ!」
「……分かった分かった、貴様、朝から騒々しいぞ。
はぁ………秀吉も同行を許す」
「有り難き幸せっ!早速準備を致しますっ」
いそいそと去っていく秀吉を見送りながら、朱里がふふっと笑う。
「秀吉さん、何だか嬉しそうでしたね」
「ふっ、遊びに行くのではないんだぞ」
「あっ、そうでしたよね。ごめんなさい。私も信長様のお仕事、お手伝いしますね」
「ああ。戦で勝つだけが天下布武ではない。
民が豊かに暮らせるように、民の話を聞き、道を作り、水を引き、田畑を整えるのが領主の仕事だ。
民が豊かになれば国が豊かになる。
海の外の国々とも対等に渡り合える豊かな国を作ることこそが、俺の成すべき仕事だ」
(信長様の大望は果てしなく大きい。
この方は理由もなく戦をしたり、人を殺めたりする方ではない。
この国を、民を豊かにするために、不要なものを排除するべく戦をしてきたのだ。
私も……この先ずっと貴方をお傍で支えていけたら…)