第79章 新命
「私、本当はずっと不安だった。結華が産まれてから随分経つのに次の子を身籠れなくて。考えないようにしようって思っても、やっぱりもう…無理なのかなって……」
「朱里っ…」
「信長様にどんなにたくさん愛してもらっても、それを形に残せない、それが申し訳なくて…ずっと辛かった。
側室も持たずに私だけを愛して下さる貴方のために、どうしてもお世継ぎを産みたかった。早く次の子を、男子を、とそればかり考えて……
願っても願っても叶わない…もう…諦めた方がいいのかと思うこともありました」
「くっ……」
「この子は、母上を亡くしたばかりの私のもとへ宿ってくれた。大切な人を失った私に宿った新しい命……この子は私に希望を与えてくれた。お世継ぎを産めるかどうかは分からないけど……そんなことが気にならないぐらい、今は早くこの子に逢いたいっ…」
「ああ…亡き母上の貴様への想いが、貴様の願いを叶えたのかもしれんな。丈夫な子を産め。男でも女でもいい、貴様との子を、再びこの腕に抱ける…俺は、それだけで充分だ」
「っ…ありがとうございます、信長様」
目から溢れる涙を隠すため顔を覆おうとする手を優しく遮ると、目蓋にちゅっと口づける。
愛おしい この世の何よりも愛おしい
溢れる想いのまま、鼻先へ頬へ唇へ、と顔中に口づけの雨を降らせる。
「んっ、ふっ…ふふ…擽ったいです、信長様…」
「貴様が可愛すぎるせいだ、仕方がなかろう?」
「ん……もぅ…」
どれだけ口づけても、足りない。
この想いを、愛おしさを、己の子を再び宿してくれたことへの感謝を……どのようにすれば、全て伝えられるのだろうか。