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永遠の恋〜信長の寵妃【イケメン戦国】

第77章 別離


春の穏やかな陽射しを受けてキラキラと輝く波間を、船は白い帆を靡かせて真っ直ぐに進んでいく。

波の穏やかな相模の海は、飽きずにいつまででも眺めていられた。

信長は舳先に立ち、遠くの水平線へと視線を向けながら、船の微かな揺れに身を委ねていた。




母の最期を看取った時、朱里は泣かなかった。
その後に行われた葬儀にも共に参列したが、そこでも朱里は最後まで涙を見せなかった。

母の死に直面することに、あれほどに怯えて心を乱していたのに、毅然とした態度で葬儀に参列する姿は、別人のように落ち着いていた。

その気丈に振る舞う健気さに、北条家の家臣たちは逆に涙を誘われていたようだったが……



「……信長様」

「……家康か…」

甲板の上をゆっくりと歩いてきた家康は、俺の少し後ろに控えるように立ち、眼前に広がる大海原に目を向ける。

此度の視察では、家康の治める三河、駿河、遠江の三国を共に回った。
急な視察であったにも関わらず、街道の整備なども行き届いており、家康の日頃の領地支配が上手くいっていることが見てとれた。

「此度の視察、大義であった」

「まぁ、俺は自分の領地に帰っただけなんで……それより、朱里は……大丈夫なんですか?
海が好きなあの子が、船室に閉じ籠ったまま、一歩も外に出てこないなんて……」

「あぁ……」


行きは、あれほど飽きずに海を眺めていたのに、帰りの今は、一度も船上に出てこようとせず、部屋に閉じ籠っている。
家康もさすがに心配になったのだろう。


「身近な者の死など…我らには、ありふれた、どうということのないものに思えることも、あやつには、相当堪えたのだろうな…」

「身内の死が、当たり前みたいに生きてきた俺らと、朱里は違いますから……」


家康は、家臣の裏切りによって父を亡くしている。
俺もまた、父を病で亡くし、兄や弟達もその多くが死んだ。

昨日まで笑い合っていた家族が、次の日には冷たい骸に変わっている……そんな日常がいつしか当たり前になっていた。


「……あの子、相当無理してますよ、信長様」

「……貴様に言われずとも分かっておる」


憮然とした顔で、眼前の海を睨むように見据える信長を、家康はチラリと横目で窺うと、自分もまた、ゆらゆらと揺らぐ海面に視線を向けたのだった。







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