第76章 優しい嘘
「……今回の刺客、もしかして佐久間殿達からのもの…ですか?」
聞こうか聞くまいか迷ったが、どうしても気になってしまい、思い切って尋ねてみるが……
「いや、それはない」
信長様の返答は、一切の迷いのない、はっきりとした否定だった。
(刺客の素性は光秀さんが尋問中だって言ってたのに…随分はっきりと否定されるんだな。
やっぱり、二人の追放には何か深い理由があるんだ)
「……朱里」
「えっ…んっ、あっ…」
不意打ちのように、熱い唇が重なる。
尖らせた舌が、唇の上をつーっと優しくなぞっていく。
「っ…はぁ…信長さま?急に、どうして??」
「貴様が浮かない顔をしているからだ。貴様が、佐久間と林の追放のことを憂いているのは分かっているが、ここ最近ずっと、そんな悩ましい顔をしているだろう?」
「それは……」
「貴様が案じているようなことは起きん。真実は…いずれ分かる日が来る。俺を信じよ」
「っ…はい…」
信長様を信じている。
世間では、鬼だ魔王だと信長様のことを冷酷な人間だと言う人が多いけれど、合理的な理由もなく家臣に冷酷な仕打ちをなさる方ではない。
私の知る信長様は、心の底では家臣を慈しみ、己の身を危険に晒しても守るような人だ。
本当は心の優しい人なのだ。
(信長様…私はどんな貴方も信じています)
私は、信長様の力強い腕の中に身を委ねていった。