第76章 優しい嘘
「っ…あっ……」
耳元で甘く囁きながら、髪を一束掬い取ると、チュッと軽い音を立てて口づける。
そのまま胸元へと滑り降りた大きな手は、袷の間へと伸ばされて……
「やっ…待って、信長様…」
このまま流されてしまいそうな自分の心情を堪えて、慌てて信長様の手を押さえて制止する。
(刺客のこととか、色々聞きたいことがあるの)
「………貴様、この指、どうした?」
「えっ?」
抵抗しようとする私を見て、口元に不敵な笑みを浮かべていた信長様だったが、私の手を見て急に眉を顰めた険しい顔になる。
私の手を掴み、その指先をじっと見つめておられる。
(指?何か…あっ!)
先程、縫い物の途中で針を刺してしまった指先
血はとっくに止まっているものと思っていたが、指先には乾いた血が少し付いていたようだ。
「あっ、これは…さっき縫い物の途中で針を刺してしまって…もう血も止まってるし、大丈夫っ…あっ、やっ…!」
ーっちゅううぅ…
「あっ、んっ…やだ、信長様っ…」
信長様は私の手を自身の口元へと運び、傷ついた指先を躊躇うことなく、パクリと咥えたのだった。
ーちゅっ ちゅるっ ぴちゃ
生暖かい口内に含まれた指は、舌を絡めてちゅるちゅると舐められる。
小さな刺し傷は、痛みもなく目立たないものなのに、信長様が舐めるたびにジクジクと甘い疼きを覚えてしまう。
「んんっ…!やっ、あぁ…」
信長様は私の耳のすぐそばで、ピチャピチャとわざと大きな音を立てて指先を舐めてくる。
その卑猥な水音が、いやらしくて…恥ずかしくて…
(っ…だめ、おかしくなっちゃう…)
「も…大丈夫、ですから…やっ、離してぇ…」
ーっちゅぷっ…
艶めかしい音とともに指が口から出された頃には、息は荒く乱れ、胸の高鳴りも激しいものになっていた。
信長様は、唾液に濡れた唇を、赤い舌でするりと拭っている。
そんな何気ない仕草にも、匂い立つような男の色気が溢れていて目が離せない。
(っ…色っぽいな。見てるだけでドキドキしちゃう……)