第13章 安土の夏
「信長様、もしやあれは……」
「ふっ、涼を感じる良い音色よな。
小田原で良い風鈴が作られていると聞き、取り寄せたのだ。
懐かしいか?」
小田原ではこの頃、真鍮製の風鈴作りが盛んで、城下の市にもこの時期風鈴を売る店が多く立ち並び、チリンチリンと涼しげな音を響かせていたものだった。
懐かしい音色に郷愁を誘われて、目を閉じて静かに聴き入る。
しばらくしてゆっくり目を開けると、目の前には、目を細め口元に優しい笑みを浮かべて私を見つめる信長様の姿があった。
どこまでも慈愛に満ちた優しい笑顔に、胸が熱くなり言葉が出てこない。
(私の為にここまで…
私の我儘に怒りもせず、こんなにも……優しい)
「信長様、ありがとうございます。
とても嬉しいです。
……ごめんなさい、私…」
俯く私の頬を両の手で包み、そっと優しい口づけを落とす。
「貴様の笑顔のためならば、たやすいものだ。
笑え。貴様は俺の隣で俺だけのために笑っておればよい」
「っ、はいっ」
潤む目から涙が溢れそうになるのを我慢して、信長様に精一杯の笑みを返す。
信長様の大きな手が背中に回り、ゆっくりと私の身体を褥に押し倒す。
信長様の深い愛情を感じた私に、これから始まる行為に対する躊躇いは、もはや微塵もなかった。