第75章 ひとり寝の夜
一揆自体の規模は、さほど大きくはない。
信長様自らが出陣せずとも、織田軍の圧倒的な強さがあれば、鎮圧は容易であろう。
されど、それに乗じた四国や九州の大名の動きが気になる。
信長様自ら出陣なさることが、後々起こるかもしれない不穏な動きを牽制することにもなる、という思惑もあり、西国の地理に精通している秀吉さんと三成くんをお供に出陣されることになったのだ。
信長様が戦で城を空けられるのは、久しぶりだ。
天下静謐が実現し、大きな戦や一揆がなくなってからは、小さな諍い程度ならば秀吉さんや光秀さんの裁量で上手く納めていたから、信長様が戦で長く城を留守にされることも少なくなっていた。
(こんなに長く離れているのは、本当に久しぶりだ。いつの間にか、お傍にいて穏やかな時間を過ごすのが当たり前になってたんだな…)
傍にいるのが当たり前、いざ離れてみると、こんなにも不安に感じるものだったなんて、思いも寄らなかった。
当初の予想に反して、綿密に準備された一揆勢の抵抗は激しく、織田軍は進軍する先々で幾つもの襲撃に遭ったらしい。
ただ、襲撃自体は簡単に退けられるようなもので、兵の被害もほとんどなかったが、進軍の足止め効果はあったようだ。
そのため、鎮圧に予想外に時間が掛かってしまったそうだ。
一揆を鎮圧し、西国諸国に厳然たる威光を示した信長様は、この機に改めて九州の大名たちとの会談を行うため、下関まで軍を進められたのだった。
島津家を筆頭に九州の大名たちは、信長様と同盟を結んでいる。
これまでも織田家とは良好な関係を保ってきており、今のところ不穏な動きなどは見られていない。
九州の国々は、海を挟んで朝鮮や明との交易も盛んであり、信長様はこの地を特に重要視されている。
異国との盛んな交易の要所
そして……異国からの防衛の要所として
信長様は、豊かな国を作るという目的のために異国との交流を取り入れることを、無条件に認めておられるわけではない。
『異国の強大な力は、いずれ日ノ本の脅威となる』
外からの強大な力に飲み込まれぬよう、日ノ本の国は一つになり、一刻も早く国力を上げねばならない。
それが信長様が目指しておられる、これからのこの国の在り方なのだ。