第115章 紀州動乱
「所詮、寄せ集めの兵どもだが向こうの火器の威力は侮れない。元就も謀神と言われるだけあって、どんな手を使ってくるか分からない恐ろしさはあるが…ま、どんな相手だろうが返り討ちにしてやるまでだ」
「言うねぇ!俺も負けていられねぇぜ!」
太々しいほどに自信に満ち溢れた政宗と、戦場にあっても底なしに明るくて気さくな慶次の周りには自然と人が集まり、大戦の前でありながらもどこか愉しげな空気が広がっている。
此度の戦は天下泰平の世を乱す不届者を成敗するという大義名分が掲げられていることもあって、織田軍の兵達の士気は高かった。
一向宗徒の盲目さは相対する兵達の恐怖心を煽り、地を轟かす念仏の大合唱を前にすると足が竦んで使い物にならなくなる者も多く、極楽往生のためならば死をも厭わぬ一向宗との戦では、捨て身の相手に兵達も及び腰になりがちで必然的に犠牲も多くなるのが常だった。
だが、此度は皆が大義のために一丸となって戦おうという気迫に満ちており、指揮を取る信長への信頼も厚かった。
「しかし元就も執念深い奴だな。こう何度も信長様に戦を仕掛ける理由は何だ?足利将軍は追放され、織田家は今や朝廷の絶大な信頼を得ている。信長様を討って次は自分が天下人に、なんて考える奴とは思えないが」
「元就は商人の顔も持ってる。世が乱れれば乱れるほど武器は売れ続けるってか?この世から戦がなくなったら、商人達は商売上がったりだろ?」
「こら、慶次!不謹慎なこと言うな」
どこから聞いていたのか、兵達の様子を見回っていた秀吉が眉を顰めて慶次の発言を窘める。
「御館様の政(まつりごと)は商人達にも手厚い。真っ当な商売をしている者に限るがな。己の利のために世が乱れて喜ぶなんざ、ロクでもない野郎だ!」
突如として憤慨したように捲し立てる秀吉に呆れながらも、政宗も慶次も秀吉と同じ思いだった。
一揆や小さな小競り合いはあれど、近頃はようやく戦のない世の実現が現実味を帯びてきていた。
生まれや身分に関わらず、人が己の望むままに生きられる世
異国と対等に渡り合い、日ノ本を豊かで大きな国にする
信長だけではなく、武将達は皆、乱世の終焉とそれに続く新しい世の実現を強く望んでいたのだ。