第74章 花の宴
秀吉さんが宴の開始を宣言すると、辺りは一気に賑やかな喧騒に包まれる。
「信長様、はい、どうぞ!」
綺麗に盛り付けられた重箱の中から料理を取り分けてお渡しする。
政宗と一緒に準備をした今日の料理は、信長様のお好きなものもたくさん作った。
「美味そうだな。貴様が作ったのか?」
「はいっ!政宗と一緒に作りました。たくさん召し上がって下さいね!」
信長様の盃にお酒を注ぎながら周りを見回すと、武将達も各々、花見の宴を楽しんでいるようだった。
「結華様、何をお食べになりますか?秀吉が取って差し上げますよ!」
「秀吉さん…結華の世話焼きすぎ…」
「…おわっ、三成っ!上ばっかり見てないで手元を見なさい、酒が溢れてるぞっ!」
「あ、すみません、秀吉様。桜があまりに綺麗だったもので……」
「はぁ…溢れすぎて、もう空だよ、盃」
「ご心配頂きありがとうございます、家康様」
「別に…お前の心配なんて、これっぽっちもしてないから」
「三成に注いでやれよ?家康」
「勘弁して下さい、政宗さん…注いだって、どうせ溢すんですから…酒の無駄遣いですよ」
「政宗には俺が注いでやろう、ほら」
「…光秀……強い酒じゃねぇだろな、それ」
「くくっ…どうだろうな…」
「彼奴らはまったく……美しき桜を前にしても騒々しい奴らだ」
呆れたように言いながらも、信長様の視線は穏やかだ。
「ふふっ…愉しくていいじゃないですか」
「……朱里」
「えっ?」
いきなり肩を抱き寄せられると、頭の上にふわりと唇が近づいた。
「っ…!の、信長様っ?急に…何ですか?」
「ふっ……髪に花びらが付いておった」
信長様は小さな花びらを口に咥えたまま、ニヤリと口角を上げる。
薄桃色の小さな花弁が、艶やかな唇の間からチラリと覗いているのが何だか妙に色っぽくて、胸の鼓動がうるさく騒ぐ。
恥ずかしくて、お顔が見れなかった。
「っ…やだっ…もう…手で取って下さい…」
「くくっ…それではつまらんだろう?」
「つ、つまらん、って…そんな…」
「せっかくの花見の宴だ。桜も貴様も、どちらも愛でねば、つまらん」
「っ…ん…もう…」
妖艶に微笑む信長様を見ていると、身体がかぁっと熱を帯びたように熱くなってくる。
ほんのり赤く染まった頬を、信長様に気付かれぬようにそっと押さえた。