第73章 恋文
障子越しに射し込む西陽が、寝所の中を橙色に染め始め、閉じていた目蓋を暖かな陽射しが擽る。
(んっ…眩しっ…)
西陽の眩しさに目蓋はぴくぴくと震え、ゆっくりと開いていった。
あの後、どれぐらいの刻が経ったのだろうか。
激しい情事の後、何度も達した余韻で重たくなった身体を、寝台の上から起こせなくなった私は、いつの間にか、そのまま眠ってしまったようだった。
肩までしっかり掛けられていた掛布を少し捲ってみると、その下はあられもない一糸纏わぬ姿であった。
(っ…やだっ…まだ明るいのに…こんな格好で寝ちゃうなんて…)
真っ昼間から信長様に濃厚に抱かれて疲れていたとはいえ、そのまま夕方まで眠ってしまうなんて、嘆けない。
(さすがに信長様は……いらっしゃらないよね…)
寝台の上には私一人、信長様のお姿は既にそこにはなかった。
ご政務に戻られたのだろうか……お忙しいはずなのに私を助けに城下へと来て下さって、城へ戻った後はすぐに寝所へ……
(っ…信長様っ…すごく意地悪だった…でも、あんなの初めて…)
信長様の手によって奥まで挿し込まれた、固い張型の感触が蘇り、下腹部がジクジクと疼いてしまう。
信長様のモノとは違う、冷たく無機質な作り物に、あんなにも感じてしまうなんて……
寝台の横の台に目をやると、そこにはもうあの箱はなかった。
信長様が片付けてしまわれたのだろう。
信長様は、あれを…また使われるおつもりかしら……
「……朱里、起きたのか?」
突然、部屋の外から声が掛かり、邪な想像に囚われていた私は、ビクリと身体を震わせた。
「は、はいっ…」
慌てて身体を起こすと、ハラリと掛布が捲れて肌が露わになってしまい、ますます焦ってしまっていると、いきなり寝所の襖がパーンッと開いた。
「わわっ、信長様っ…いきなり開けないで!私、まだ…着替えてない……」
「くくっ…なかなかに唆る格好だな、貴様。慌てて着替えずとも、このまま夜まで褥の上から起きられぬようにしてやろうか?」
「っ…いじわるっ……あのっ、やっぱり怒っていらっしゃいますか?私…貴方に黙って勝手なことをして…あんな事になってしまって…」
あの男が京で、信長様の評判を貶めるようなことをしたら…そう思うと不安で仕方がなかった。