第73章 恋文
「あぁ…夢のようですね、天女を抱けるなんて」
恍惚の表情を浮かべて、男はすぐさま私を褥に押し倒し、身体の上に覆い被さった。
耳元で囁かれ、熱い息が首筋にかかる。
(い、いやっ、気持ち悪い…)
「やめて!離してっ!」
男の下から逃れようと身を捩るが、がっちりと押さえ付けられているために身動きすら出来なかった。
男の手が袷の間に入り込み、肌を直接、するりと撫で上げる。
「んっ!…や、いやぁ…やだぁ」
嫌悪感で目尻に涙が滲む。
信長様以外の男性に肌に触れられるなんて…なんて気持ち悪いんだろう。
大声で助けを呼べば…でも、こんな破廉恥な場所で騒ぎになったら信長様にも迷惑が掛かる……様々な葛藤が心の内でせめぎ合って、声を上げられずにいる私を嘲笑うかのように、男の手は無遠慮に身体の上を這い回る。
「あぁ…なんて滑らかな肌だろう…安心して下さい、すぐに気持ち良くして差し上げますよ…」
着物の中を弄る手が胸の膨らみに触れ、ぎゅっと鷲掴みにした瞬間、恐怖で身体が強張った。
「やっ、いやぁ…助けて…信長さま…」
この場にいない愛しい人の名を無意識のうちに呼んでいた。
助けを求めても、届くはずのない……
「阿呆がっ…もっと早くに呼べばよいものを、我慢ばかりしおって…」
(っ…えっ……?)
いつの間にか入り口の襖は開いていて、そこには、ここにはいないはずの、求めて止まない愛おしい人が立っていた。
「……信長、さま…」
(なぜ…どうしてここに…っ…すごく怒ってる…)
身体から怒りが迸っているかのように、近寄りがたい雰囲気を纏った信長様は、その存在だけで男を威圧する。
「…離れよ」
「っ……」
「聞こえぬのか?朱里から離れろ、今すぐに、だ」
声を荒げることなく淡々とした口調で告げられる言葉は、他を圧倒する力強さがあり、男は顔面蒼白で声も出ないようだった。
信長様の剣幕に完全に気圧された様子の男は、転がるように部屋を飛び出していった。
「の、信長様…あのっ…」
「…心配いらん、彼奴の素性は知れておる。貴様が案じているようなことにはならん」
「で、でもっ…」
(信長様が京で悪し様に言われるようなことになったら…)
「っ…うるさいっ…もう…黙れ」
ーちゅっ ちゅうぅ…
「んんっ!んっ、ふぁ…あぁ」