第13章 安土の夏
その同じ頃、広間では〜
上段の上座には、眉間に皺を寄せ、物思いにふける様子で、秀吉の読み上げる報告を聞く信長の姿があった。
「………以上でございます。
御館様、ご指示を」
「…………………」
「…御館様?」
「……聞いておる。引き続き、動静を探り、報告せよ」
いつもの威厳ある態度で指示をするものの、どこか心ここに在らずの様子の信長に、皆、顔を見合わせる。
(こんな御館様は見たことがない。どうしたっていうんだ?)
秀吉が堪らず問いかける。
「あの、御館様。何か気にかかることでも?」
「いや、……ん、そうだな。朱里のことだ。
ちょうど良い。貴様ら、知恵を貸せ」
「は?朱里?
朱里に何かあったのですか??」
「……朱里がここ最近、俺の夜伽をことごとく断ってくる。
もう数週間、あやつに触れておらん。
理由は色々言ってくるが、恐らく適当な言い訳であろう。
そろそろ俺の我慢も限界だ。
命令だ。貴様ら、朱里の本心を探れ」
全員ががっくり肩を落とす。
「……俺、もう帰っていいですか?」
「駄目だ、家康。貴様も何か知恵を出せ」
「……あの、御館様。女子には色々事情があるのでは?」
「信長様が激しく求めすぎたんじゃないですか??」
「小娘の考えること、大した理由もないでしょう」
「朱里様はどこか具合がお悪いのでしょうか?」
皆、口々に勝手なことを言っていて腹立たしいが、それでも皆に聞かずにはいられないぐらい、事は深刻なのだ…。
(最初は、単なる気紛れだろうとさして気にもしていなかったが、こう続けて断られると気にかかる。
第一、あやつが足りん。心も身体もあやつに飢えておる。
早々に何とかせねばならん)