第72章 淡雪の恋
「ふふ…お寂しいのですか?」
膝の上に、甘えたように頭を預ける信長様が少し寂しそうに見えてしまい、身を屈めて耳元でこっそり囁いてみると、下からジロリと睨まれてしまった。
「……馬鹿なことを…くだらんことを言う口は、塞いでやろうか?」
下から伸ばした指先で、プニっと唇を押さえられてしまう。
「んっ!やっ…」
触れられた部分が、熱を持ったようにじわりと熱くなる。
顔がかぁっと赤くなったように感じた。
「ふっ…他愛もないな」
ニヤリと唇の端を上げて笑む姿は、いつもの余裕たっぷりの信長様で、先程までの頼りなさは、いつの間にか微塵も感じられなくなっていた。
「っ…んっ、やっ…」
指先がゆっくりと唇をなぞっていく感触に、背がぞくりと震える。
まだ陽も高く、同じ室内には子供たちもいるというのに、私の中の女の部分が疼いてしまうのを抑えられないでいた。
「くくっ…貴様とこのまま戯れるのも心地良いが…さすがに、ここではな……」
「っ…あっ…」
子供たちは、こちらには興味がないのか、碁を打つのに夢中になっていて私たちの様子には気付いていないようだ。
(んっ…子供たちの前なのに…もっと深くまで触れて欲しい、って思っちゃった…)
少し息が乱れた私を信長様は満足そうに見つめると、ふっと小さく笑って目蓋を閉じた。
今日はいつもより暖かく、縁側にはぽかぽかした陽気が降り注いでいる。
暖かな陽射し
子供たちの愉しげな笑い声
無防備に頭を預ける、愛おしい人
絵に描いた幸せを切り取ったような、この満たされた時間に、いつまでも身を委ねていたいと、そう願わずにはいられなかった。