第72章 淡雪の恋
風のように出ていった信長の後を、武将たちは呆気に取られたように見ていたが……
「おいおい、面白いことになってるな、これ」
「いやはや、御館様のあのような慌てた姿を見られるとはな」
「はぁ…結華には甘いと思ってましたけど、あの人がここまで親馬鹿だとは思いませんでしたよ、俺」
「家康っ、御館様に対して馬鹿とは何だ、馬鹿とは!無礼だぞっ」
「……親馬鹿と馬鹿の違いは何でしょう?」
「三成はちょっと黙ってて。話がややこしくなるから」
「新九郎のことは信長様も気に入ってるみたいだし、結華ともいい感じなんだろ?このまま、縁組纏めればいいんじゃねえのか?」
「政宗、お前なぁ、簡単に言うなよ。結華様は御館様のたった一人の大事な姫君だぞ。嫁になど…やれるかっ!」
「秀吉さん…それは父親の言う言葉ですよ…はぁ、ここにもいたか…親馬鹿が…」
「馬鹿馬鹿言うんじゃねぇっ!どいつもこいつも、御館様のお気持ちも考えないで勝手なことを……」
「落ち着いて下さいませ、秀吉様。そうだ、私が行って、こっそり様子を見て参りましょうか?」
「やめろ、三成」
「やめとこう、な、三成?」
(こっそり…なんて三成には絶対無理だ。またややこしいことになるに決まってる……)
「…?そうですか…皆様がそう仰るんでしたら…」
「ま、何にせよ、結華が楽しそうなのはいいことだ!」
「……簡単にまとめるなよ、政宗…」
(結華様はまだ六歳だ、縁組なんて早すぎる。新九郎はいい子だが、彌木家の嫡男だしなぁ…御館様が結華様を嫁に出されるはずはないっ…いや、そもそも二人はそういう感じなのか…?)
モヤモヤとした晴れない想いに囚われた秀吉は、信長が出ていった入り口を心配そうに見つめるのだった。