第72章 淡雪の恋
次の日から、新九郎くんは信長様の小姓のような扱いで、お傍に付いて色々なことを学ぶようになった。
剣術の稽古も、信長様だけでなく、秀吉さんや政宗たちも時間があれば相手をしてあげていて、皆が新九郎くんを微笑ましく見守っているようだった。
「あれ、新九郎くん、一人?信長様は?」
庭に面する廊下の端に座っていた新九郎くんを、偶然見つけて声をかける。
「あっ、奥方様っ!信長様はこれから軍議だそうです。重要な話だから外すように言われました」
「そう…じゃあ、奥へいらっしゃい…一緒にお茶でも飲みましょ」
「はいっ!ありがとうございます」
奥の自室へと戻り、結華にも声をかけて三人でお茶の時間を楽しんでいると、何だか自分の子供が増えたみたいで嬉しくて、ついつい口元が綻んでしまう。
それほどに、新九郎くんは愛らしい子だった。
「新九郎さま、この後、囲碁の相手をして下さいませんか?」
「いいですよ。でも結華姫はお強いからなぁ…私が相手では物足りないのではないですか?」
「そんなことっ…」
(ふふっ…すっかり仲良くなったみたい)
新九郎くんは、空いた時間には囲碁や貝合わせの相手をしたりと、結華のことも何かと気にかけてくれている。
日に日に仲良くなる二人を見ていると、このままひと月後に別れてしまうのがひどく惜しく感じるのだった。
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「それでは御館様、この案で進めます」
「ああ、経過は逐一報告せよ。
今日の軍議はこれで終いにする……新九郎はどこにおる?」
時間が空いたので稽古でも付けてやろうと思い、傍に控えていた小姓に尋ねる。
「はっ、ただ今は奥方様の自室にて、結華様と囲碁をしておられるようです」
「っ…結華と囲碁だと…?」
小姓の返答を聞いた途端、自分でも無意識に立ち上がっていた。
そのまま、サッと羽織を翻し、広間の入口に足早に向かう。
「お、御館様っ?どちらへ?」
秀吉が慌てたように席を立とうとするのが視界の端に見えたが、構わずに広間を出る。
「軍議は終いだ、後は好きにしろ」
「いやいや、お待ち下さいっ、御館様っ…」