第72章 淡雪の恋
「ん?ああ…この箱は……秘密だ」
「えっ?(秘密って…何?)」
秘密、などと意味ありげな言い方をされては余計に気になる。
信長様は箱の上に手を置いて、ニヤニヤしておられるし…これで気にならない方がおかしいと思う。
「っ…気になります…」
「気にするな……いずれ教えてやる」
(忘れられぬぐらい、たっぷりと…な)
「う〜、意地悪っ…」
「くくっ…そんなに唇を尖らせおって…口づけでも強請っておるのか?」
「やっ、ちがっ…んんっ!」
長い指先でクイッと顎を救われて…唇がふわりと重ねられる。
ーちゅっ ちゅっ ちゅうぅ…
音を立てて啄むように何度も重なる唇は、熱をもったように熱く、触れるたびにその熱が伝染して私の中を熱くさせる。
「んんっ、っ、は…はぁ…」
唇を重ねたまま、身体の線を確かめるように、信長様の手が夜着越しに私の身体を弄ってくる。
背中から腰へ、腰から尻へ、とゆっくりと撫でる手つきは、この上なく優しい。
「あっ…んっ…やっ、だめ…」
尻をやわやわと撫で回す手を慌てて制止すると、チュッと可愛らしい音を立てて唇が離された。
「……分かってる、今宵は何もせん。身体を冷やさぬよう、もう寝所へ行くぞ」
「っ……ごめんなさい」
私を横抱きに抱き上げた信長様は、さっと立ち上がって寝所へと歩き出した。
その逞しい胸元にそっと顔を埋めて、腕の中へ身を委ねる。
寝台の上に私を優しく寝かせた信長様は、隣に身を横たえて肩を抱き寄せてくれた。
「…身体は辛くはないか?」
「はい…近頃は痛みで寝込むようなこともなくなりましたし、家康のお薬が効いてるのかも…」
今宵は月の障りが訪れていたが、以前のような下腹部の痛みや怠さといった症状は近頃では殆ど見られず、穏やかに過ごせていた。
「ならばよいが…無理はするな」
「ありがとうございます、信長様」
肩を抱く腕に少し力が籠るのを感じて、私もそっと身体を寄せる。
身体の交わりができなくても、こうして寄り添って眠る夜も、私は好きだった。