第71章 商人の町
再び手を繋いで商館へと戻ると、信長様は私の身体を抱き締める。
「あっ…信長さま…」
「……やはり冷えてしまったな。湯殿で温まるぞ」
「あ、はい…信長様、先に湯をお使い下さい。お風邪を召されてはいけませんから…」
「貴様…何を寝惚けたことを……一緒に入るに決まっておろうが」
眉を顰めて呆れたような目で見てくる信長様に、焦ってしまう。
そんなに堂々と言われても……困る。
「えっ……ええっー、いや、でも、あの、それは…」
「……貴様、いつも結華とばかり入りおって……たまには俺の背中を流せ」
「えっ…あっ、はい……」
プイッと横を向いた信長様の耳が少し赤い。
(信長様、照れてるの? か、可愛いっ…)
信長様の意外に可愛い一面を見て満足してしまった私は、久しぶりに一緒に湯に入るという恥ずかしさがどこかへ飛んでしまったようだ。
信長様にグイグイと手を引かれて、あっという間に湯殿へと連れてこられてしまった。
「貴様も早く脱げ」
言いながら、自分はさっさと着物を脱いで下帯ひとつの格好になってしまっている。
「やっ、ちょっと…待って、信長様っ」
鍛え上げられた肉体を惜しみなく晒し、躊躇うことなく、私の目の前で下帯の結び目に手を掛けたところを見て、慌てて後ろを向いた。
「何を今更…俺の裸など見慣れているだろう?今朝も見たばかりではないか…」
「そ、それは、そう、なんですけど…う、後ろ、向いてますから、先に入って…」
「はぁ…全く…俺が上気せる前に来るのだぞ?」
「は、い…」
(見慣れててもやっぱり恥ずかしいな……それに、見られるのも、恥ずかしい)
褥で何度も肌を重ねていても、一緒に湯に入るのはやっぱりちょっと恥ずかしい。
(だって……ただ湯に浸かるだけ、のはずがないもの…)
これまでに湯殿でした濃密な交わりの数々が、いきなり思い出されて身体がかぁっと熱くなる。
(んっ…だめ…厭らしいこと考えちゃう…でも、『今宵は寝かせん』って信長様も言ってたし…あぁ、どうしよう…熱くなってきちゃった…)
湯に浸かる前から、早くも上せたように身体が熱くなり始めていた。