第71章 商人の町
見事な献上品の数々に感心しながらも、信長は、その異国の技術を日ノ本の職人たちの技術に応用できないか、と考える。
異国の高い技術を積極的に取り入れることで、自国の技術力を更に高めて豊かな国を作りたい。
何者にも侵されぬ、豊かで大きな国を…
(異国の地を、その高い技術を、自らの目で確かめたい)
商談は和やかな雰囲気のまま終了し、後の細かな打ち合わせを光秀に委ねた信長は、ひと足先に部屋を出た。
「それでは明智様、本国より連絡があり次第、またご連絡致します。この度は誠にありがとうございました」
「ああ、御館様も大層お喜びのようだった。これからも宜しく頼む」
「はい、こちらこそ……あっ!」
にこやかに話をしていた商人は、急に、何かを思い出したかのように声を上げ、困ったように眉尻を下げた。
「如何なされた?」
「あ、いや、あの、そのぅ…信長様にもう一つ『特別な献上品』があったのを忘れてしまっていたのです…少し特殊なものでして、あの場で出しづらく、奥にしまっていて忘れておりました…」
「『特別な献上品』…とは?」
光秀の切れ長の目がキラリと光る。
商人は小さな箱を取り出すと、ニヤリと笑って光秀を見る。
そっと蓋が開けられたその箱の、中身を見て、光秀は思わず息を飲んでいた。
「っ……これは、また……想像を超える品だな……何故、このようなものを御館様に?」
「ふふ…信長様は美しい奥方様を大層ご寵愛だとか…この国では珍しく妻を一人しか娶っておられないと…大変素晴らしいことです」
ポルトガル人のこの商人は、当然のことながらキリシタンであり、日ノ本では当たり前の一夫多妻は、キリスト教では認められていないという。
図らずも、朱里ただ一人を寵愛される御館様は、キリシタンの目からは好ましく見えるということらしい。
「お二人が更に睦まじくなられるために、このようなものを使われるのもまた一興かと思いまして…」
「くくっ…なかなかに面白い趣向だな。御館様も、きっとお気に召すに違いない。俺からお渡ししておこう」
商人の手から箱を受け取った光秀は、蓋を閉める前に再度中身を見てニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
(御館様は、これを見て、どんな顔をなさるだろうか…あぁ…楽しみで仕方がないな…)