第71章 商人の町
「……何だ、その顔は…餅みたいに膨れおって」
「なっ、も、餅っ??ひ、ひどいですっ!」
「くくっ…ほら、餅みたいに柔らかくて伸びる…」
むにゅっと頬を摘まれて、そのまま横にむにゃーっと伸ばされる。
「やっ、もぅ…いひゃい(痛い)」
「くっ…くくっ、はっ、ははっ!」
(んっ、もうっ!信長様の意地悪っ……でも、こんなに声を上げて笑う信長様、珍しいな…初めて見たかも…んーまぁ、いいか…)
「………朱里」
思いがけず笑いのツボに入ってしまったらしく、ひとしきり声を上げて笑っていた信長様は、ようやく笑いが鎮まりかけると、複雑な表情で立ち竦んでいた私の身体を、ふわりと抱き締めた。
柔らかく包み込むような、優しい抱擁。
顔を埋めた、逞しい胸元から聞こえてくる、少し速めの鼓動。
「……んっ、信長様?」
「 Te amo (愛してる) 」
「っ……あっ…」
「 Eres mía (貴様は俺だけのものだ) 」
「んっ!んんっ…はぁ…」
甘い囁きとともに、熱い唇が重ねられて、深く深く求められる。
異国の言葉は、甘やかに私の心を擽って蕩けさせる。
それはまるで、魔法の言葉のようだ。
海の上、まだ日の高い時刻、人目もある……そんなことも忘れてしまうほどに、私はただ、与えられる熱情に溺れていった。