第70章 初詣
「よしっ、行くか…初詣。 朱里、結華とともに出かける支度をしてこいっ!」
「…ええっ? い、今から?」
「当たり前だ、支度ができたらすぐ出かけるぞ。秀吉に見つかるとまたうるさいことになりそうだからな」
「は、はいっ」
(信長様……いつもながら、なんて思いきりがいいんだろう。でも、嬉しいっ…今年は行けない、って諦めてたから…)
信長様に急かされて、いそいそと部屋を出た私は、足取りも軽く自室へと向かった。
支度をして、結華と一緒に城門前に行くと、信長様は既に来ておられたらしく、純白の羽織を纏った背中が見えた。
「信長様っ!」
「父上っ!」
呼びかけると、振り向きざま、ふわりと微笑まれた。
(うっ…この笑顔、いつ見ても素敵だな)
自分と結華にだけ向けられる、信長様の極上の微笑みに、今更ながらキュンとときめいてしまう。
「では、行くぞ」
差し出された手
繋ぎたい…けれど、三人で出かける時は結華を真ん中にして、結華の手を繋ぐから……少しだけ、ほんの少しだけ、寂しい。
天満宮はこの辺りでは古くからある大きな神社らしく、普段から多くの人々の信仰を集めているようだった。
三人で手を繋いで他愛ない話をしながら、歩いていく。
三が日を過ぎて、参拝の人出も落ち着いているのか、参道はごった返すこともなく、ゆったりとしている。
やがて眼前に大きな本殿が見えてきて、広い境内へと足を進める。
城下へ出る時は、嬉しさのあまりいつもはしゃいでいることが多い結華も、今日は何やら大人しい。
晴れ着を着て神社へお詣り、ということで厳かな気持ちになっているのだろうか…何だか急に大人びた娘の姿が微笑ましかった。
本殿の前まで歩いていき、姿勢を正してから、ゆっくりと二度、礼をする。
それから二度、柏手を打つ。
もう一度手を合わせて、お祈りをする。
お祈りの後、軽く息を吐いて、もう一度深くお礼をした私に、隣に立っていた信長様から呆れたような声がかかる。
「……貴様…一体、どれだけ祈るつもりだ?神頼みにも程があるぞ」
「ええっ…やだ、そんなつもりじゃ……私、そんなに長かったですか?」
毎年こんなものだろう、と思いながら反論するが、信長様は苦笑いを浮かべている。