第68章 おあずけ
結華と湯浴みを済ませてから、夜着に着替えて天主に戻る。
部屋に入る前に、湯上がりの自分の姿を改めて確認する。
(よし、今日は特に念入りに身体も磨いたし、シャボンの良い香りもほんのりしてる。お化粧も薄めにしてきたし、夜着も……)
今宵は、夜着もいつもと違うものを纏っている。
薄紅色の、少し薄い素材の生地でできたもの。
真冬の今の時期には肌寒いが、そんなことは言っていられない。
(信長様に、少しでも色気のあるところを見せたいから…ちょっと寒いけど我慢我慢…)
「……信長様?」
襖を開けると、先に湯浴みを済ませて、夜着に着替えていた信長様は、寝台の端に腰掛けて、なぜか扇子で顔を扇いでおられた。
この真冬に…なんで扇子??
ん?心なしかお顔が赤いような……
「信長様……暑いんですか?」
「っ…あぁ…(くっ…誰のせいだと思ってる…)」
扇子で風を送る手を休めぬまま、ふっと朱里の方へ目線を向けた信長は、次の瞬間、自分の行動を激しく後悔する。
(っ…こやつ、今日に限って何という格好を…)
朱里は、いつもと違う薄い素材の夜着を身に纏っており、湯上がりの温もりの残った身体からは、匂い立つような色気が滲み出ているようだ。
薄紅色の夜着は、身体の線が透けて見えるほど薄く、胸元の膨らみや、その中心の頂きまでもが強調されていて……なんとも、いやらしい。
朱里の艶めかしい姿を見た途端、かあっと身体が熱くなり、自然と動悸が早くなってくる。
「っ…くっ…」
「信長様、あの、大丈夫ですか…?」
朱里は、心配そうに傍に来ると、足元に跪いて、上目遣いで見上げてくる。
自然な感じで太腿の上に手を置かれ、一瞬で下半身がぐっと熱を持ったのが分かる。
「信長様…?」
明らかにおかしい俺の様子に不安を感じたのか、更に身体を寄せてくると……足元に柔らかな胸の膨らみが当たる。
「っ…朱里っ…」
身体中が熱い
籠った熱を今すぐに発散したい……が……
ーパチンッ!
開いていた扇子を、思い切って勢いよく閉じると、思ったより大きな音がして、その音に朱里がビクッと身体を震わせた。