第68章 おあずけ
その日の夜
湯浴みを済ませて天主に行くと、信長様はもう寝所の方におられた。
(珍しいな、いつもならまだ書簡を読んでおられたり、御酒をお飲みになっておられたりしてるのに……お疲れなのかしら)
「朱里、来い」
部屋に入ってきたばかりの私に、寝台の上に身を横たえたままで手招きされる。
「…信長様、今宵はもうお休みになりますか?」
慌ててお傍へ寄ると、いきなりぐいっと腕を引かれて、引き寄せられた。
「っ…きゃっ!」
体勢を崩して倒れ込む私を腕の中へと捕らえた信長様は、そのままぎゅうっと力を入れて私を抱き締める。
髪に顔を寄せられて、信長様の吐息がかかる。
「んっ…信長様っ…?」
「ふっ…貴様の身体は暖かいな。湯上がりの良い匂いがする」
首筋の近くで、すぅっと息を吸われてしまい、湯浴みを済ませていても、何だか恥ずかしくなる。
「やっ、やだっ…離して…恥ずかしいです」
「これぐらいで恥じらうとは、貴様はいつまで経っても変わらぬな…では、今宵はもっと恥ずかしいことをしてやろうか?」
口角を上げて不敵に笑まれ、身体の芯がゾクっと震える。
信長様の妖艶な仕草に、身体が自然といやらしい期待をしてしまっているかのようだった。
信長の手が、朱里の身体の線を確かめるように、夜着の上から背中、くびれた腰、丸い尻、と、次々と触れていく。
尻を揉んでいた手が前へと回り、下腹部をすりすりと擦りだす。
その優しい手つきが逆に焦ったくて、自然と足の中心を擦り合わせてしまっていた。
朱里のその物欲しそうな様子に目ざとく気づいた信長は、ふっ、と口元に優しく笑みを浮かべる。
「ふっ…今宵も俺に全て捧げろ」
耳元で囁くと同時に、シュルッと夜着の腰紐が引き抜かれて……
(あんっ…ダメっ…今宵は…)
「だ、だめっ、信長様っ!」
腰紐を掴んだままの信長様の手を強く押さえる。
「は?貴様、何を言って……あぁ、俺を焦らす気か?それも良いが…今宵はそういう気分ではない。早く貴様を抱きたい」
『抱きたい』と、はっきり身体を求める言葉を耳元で甘く囁かれて、嬉しくて胸が震えるが………
「っ…いやっ、本当にダメですっ!」
ここに至り、信長は朱里の様子がおかしいことに気付く。