第68章 おあずけ
「ちょっと、あんた、恥ずかしいこと、言い過ぎだから……全く、俺のこと、何だと思ってるわけ?一応、俺も男なんだけど…?」
「ご、ごめんなさい。っ…でも、こんなこと相談できるの、家康しかいないんだもん…。
ごめんね、変なことばっかり言っちゃって……」
落ち込んだようにしゅんっとなる朱里を見て、家康は、あぁ、もう、可愛いな、と秘かに思う。
信長様の奥方でなかったら、たぶん好きになってただろうと思うぐらいに朱里のことは気に入っている。
朱里は、大人の女みたいな妖艶さを見せたかと思ったら、次の瞬間、少女のように無邪気に笑う……くるくると表情を変えて、見ていて飽きないし、すごく惹きつけられる。
(信長様が何年経っても夢中なのが分かるな…きっと飽きることなく何度でも抱いていらっしゃるのだろう…それを禁欲って……俺、嫌な予感しかしないんだけどっ??)
「っ…朱里、あんた本気で信長様に我慢させる気?」
「うんっ!」
「はぁ……俺、絶対無理だと思うけど。あの信長様だよ?あの人に我慢なんてできるわけないでしょ?」
「うっ…でも、信長様の御子を授かるためだもん…」
(子供も好きだけど、あんたのことはもっと好きなんだよ…信長様は)
「はぁ……じゃあ、まぁせいぜい頑張って」
「…………協力して、家康」
「はぁ?なんで俺が……」
「お願いっ…こんなこと頼めるの、家康しかいないんだもん…」
潤む瞳で見つめてくる朱里を、あしらうこともできなくて、家康は渋々ながら頷くしかなく………
(はぁ……もう…面倒なことになる予感しかしない…)