第68章 おあずけ
「家康っ…!」
家康の部屋に着くと、返事も待たずに襖を開けていた。
「朱里っ?何?いきなり、どうしたの?」
突然部屋に飛び込んできた朱里の尋常でない様子に、家康は何となく嫌な予感がして、眉を顰める。
「っ…家康、あのっ、聞きたいことがあるんだけど…」
「急に何なの?あんた、ちょっと落ち着きなよ」
「ご、ごめんっ…でも、今すぐ聞きたくて…あのね、家康は知ってる?えっと…閨での交わりが多すぎると、身篭りにくくなる、って……本当?」
「なっ…あ、あんたね、いきなり何てこと聞くんだよ…」
「だ、だって…噂で聞いたんだもん。いっぱいシたら、こ、子種が薄くなるって…」
「ぶっ…(可愛い顔して何てこと言うんだよ、全く…)」
いきなりの赤裸々な質問に、家康は開いた口が塞がらないが、朱里は至極真面目に悩んでいるらしく…その顔は真剣そのものだった。
「はぁ…そういう言い伝えは俺も聞いたことあるけどさ…本当かどうかは分かんないよ?
……ていうか、実際どうなわけ?
っ…その、信長様のアレ…(って、俺も何を聞いてんだか…)」
朱里は質問の意味を理解したのか、ぽっと顔を赤らめて俯いてしまう。
「えっ?やだっ…そんなの分からないよ。う、薄いかどうかなんて…見えないし。信長様のは何回目でも多くていっぱいだから、こ、子種もいっぱいあるんだと勝手に思ってたんだけど…」
顔を赤く染めて恥ずかしそうにしながら言う。
「うっ…」
(…何回目でも多い、とか…何気にどぎついこと言うな、この子)
「家康っ…どうしよう?私、信長様のお世継ぎが欲しいの…。
信長様は『今後、子が出来なくても構わん。結華一人でもよい』といつも言って下さるけど…でもやっぱり…」
「朱里……」
結華を産んだ後、なかなか次の子を身籠らないことに、朱里がずっと悩んでることは知っている。
体質を改善するためにと煎じている漢方薬も、欠かさず飲んで頑張っている。
(俺だって、朱里の願いを叶えてあげたいけど、こればっかりはねぇ……)
暫くの間お互いに無言になった後、朱里は思い切ったように高らかに言い放った。
「……家康、私、決めたよ。信長様に、き、禁欲してもらいますっ!」
「……………はぁ?」
「いっぱいシたら薄くなるんだったら、我慢してもらって……こ、濃いのを…」