第68章 おあずけ
女中達のあけすけな噂話を聞いてしまい、色々と衝撃を受けた私はそのまま女中部屋を尋ねる勇気もなくなり…慌てて自室へと戻ったのだった。
「千代っ!ねぇ、千代っ…」
「まぁ、姫様、どうなさったのですか??そのように慌てて…
女中頭のところへ行かれたのではなかったのですか?」
息を切らして戻ってきた私を、千代は怪訝そうに見る。
「千代っ…あのね、聞きたいことがあるのっ…あの、そのぅ…千代は知ってる?っ…閨事が過ぎると、こ、子が授かり難くなるって…本当なのっ?」
「ま、まぁ、姫様っ!昼日中から、何と、はしたないことを仰るんですか??」
千代はギョッとした顔で私を睨む。
「だ、だって…女中さん達が噂してたんだもん…」
「なんと!姫様にそのような噂話をお聞かせするなど、許せませぬ。早速に叱っておかなくてはっ」
眉を顰めて難しい顔をした千代は、すぐにでも女中部屋に乗り込まんばかりの勢いだ。
「っ…千代、そんなことよりもよ…どうなの??」
「っ…姫様…た、確かに、そのような言い伝えを聞いたことはございますが……本当かどうかは…
交わりが頻繁だと、その分、殿方の子種が薄くなって身籠り難くくなる、などと昔から言われておったりはしますが…迷信ですし、本当のところは分かりませんよ」
「で、でも…そんな言い伝えがあるのは事実よね…ど、どうしよう、千代っ…私、それで身籠れないのかな??」
「落ち着かれませ、姫様。医師でもなければ、そのようなこと、分かる筈がございませんよ?」
「そうだけど…医師か…家康なら、分かるのかな…?
っ…私っ、家康に聞いてくるっ!」
「ひ、姫様っ?家康様にそんなはしたないことを……あっ、お待ち下さいませっ…」
千代が慌てて引き留める声も聞かずに、私は急いで部屋を出た。
そんな言い伝えがあるなんて…知らなかった。
信長様に毎日たくさん愛されて幸せだし、交わりが多ければいつかは…と思っていた。
結華を産んだ後、乱れていた血の巡りも、家康が煎じてくれている漢方薬を毎日飲んでいるおかげか、最近は安定してきている。
月の障りも毎月きちんと来るようになって、安心していたのだけれど……
(いっぱいシたらダメだなんて…聞いてないよ…)