第68章 おあずけ
年内の政務が一段落した信長様は、約束どおり二人でゆっくりと過ごす時間を作って下さった。
私は久しぶりに朝から晩まで信長様との濃密な時間を過ごすことができて、心も身体も満たされていた。
年始は大坂で迎える初めての正月ということもあり、各地の大名達からの挨拶の予定も数多く入っているようで、家臣の方や女中さん達は毎日、事前の準備に忙しそうだった。
(年が明ければ忙しくなるし、信長様にも休める時に休んで頂かなくちゃ……)
とはいえ……ここ数日は朝も夜も(時には昼も)求められることが多く、信長様の体力は底なしなのか…と衝撃を受けることもしばしばだった。
(毎日愛されるのは嬉しいけど、信長様のお体も心配だし…)
そんなことを考えながら、私は、年始の準備で女中頭の方に確認したいことがあった為に、女中部屋へと向かっていた。
部屋の近くまで来ると、中からは女達の楽しげな話し声が聞こえてくる。
やはり女同士が集まると噂話なども盛んになるようだ。
千代などは見つけるときつく叱っているようだが、仕事に支障がなければある程度は息抜きになるし、と私はそれは黙認していた。
「はぁ、今年は年始の準備が特に忙しいわね〜」
「城移りして初めての正月だもの、仕方ないわよ」
「それにしても…ここ数日の御館様、奥方様に特にお優しいと思わない?」
「あっ、それ、私もそう思うわ〜。お二人とも仲睦まじくって……
御館様のお笑いになるお顔、見た?ほんと、素敵よね〜」
(うっ…やっぱり信長様は女中さん達にも人気あるなぁ…)
「でも……あんなに仲がよろしくていらっしゃるのに、お世継ぎがまだ、なんてねぇ…」
「ほんと、結華様がお産まれになられてから随分経つのに、次の御子がお産まれにならないなんて、ねぇ?」
(っ…………)
「あれほど、ご寵愛が深くていらっしゃるのに……」
「本当にね、すぐにでも身籠られるかと思ってたけど」
「まぁ、でも、あっちの方が盛ん過ぎると子が出来難い、とも言うじゃない?お二人は、夜も日も明けぬほど睦まじいご様子だし、ねぇ?」
「あらやだ、そんなはしたないこと言っちゃダメよ〜」
(……えっ?えええっ?今、何て言った??子が出来難いのは…何って?)