第67章 秘密の宴
政宗の御殿から朱里を連れ出した信長は、手を引いて無言でスタスタと歩く。
足元の覚束ない朱里は、半ば引き摺られるようにして歩いていたが、無言の圧力に耐えられず、遂に信長の背中に声をかけた。
「の、信長様っ…待って。お願いっ、待って下さい!」
「待たん!……歩けぬのなら、こうしてやる」
クルリと振り返った信長は、一瞬のうちに朱里の身体を抱き上げていた。
横抱きにして、強く抱き締める。
「っ…きゃっ!やだっ…降ろしてっ」
「全く…待てだの、降ろせだのと、我が儘な奴め、少しは黙っていろ」
ーぶちゅっ!ちゅううぅー!
「っ…んんっ!? んんんっっー!」
ばくっと唇に噛みつかれ、蓋をするみたいに覆われると、そのまま強めに吸い付かれた。
呼吸全てを奪い尽くすような激しい口づけに、頭がクラクラする。
(うっ…くっ…息、出来ない…苦しっ…)
酸素不足の頭は、何も考えられなくなくなってくる。
荒々しい口づけに信長の怒りや苛立ちをひしひしと感じ、朱里はただ、なされるがままになっていた。
信長は、自身の腕の中でもがいていた朱里の身体から少し力が抜けたのを感じて、塞いでいた唇を僅かに離す。
「んっ、ふぅ…はぁ…」
空気を求めて忙しなく息を継ぐ朱里の胸が、大きく上下するのを見下ろしながら、信長は感情を抑えられない自分に苛立ちを感じていた。
(くっ…俺はまた…こんな風に苛立ちをぶつけて、朱里を傷つけたいわけではないのに…)
「……信長さま?」
潤んだ瞳で見上げてくる姿に、激しく感情を揺さぶられる。
愛おしい 大事にしたい
腹立たしい 滅茶苦茶にしてしまいたい
二つの相反する感情が、心の内でせめぎ合い、自分で自分を制御出来なくなる。
その感情の不安定さが、余計に苛立ちを増幅させる、という悪循環。
(己のなかに、これほど弱い部分があるとは思わなかった。
妻が無断で外泊をしたぐらいで苛々するなど、大人げないとは思うが……朱里が俺以外の男のところに…そう思うだけで心が乱れる)
「あの……信長さま…?」
朱里の不安げな声に思考を戻した俺は、千々に乱れる心の内をひた隠しにし、平静を装った口調を心掛ける。
「城へ戻ったら、貴様の言い分を聞いてやる…たっぷりとな。
だから……今は、黙って俺の腕の中に囚われておるがよい」