第67章 秘密の宴
「っ…どうして、信長様がここに……」
「お前を迎えに来られたんだろ?光秀には、頃合いを見て事情をお伝えするように言ってあったからな。けど、まぁ、予想よりちょっと早かったな…もうちょっとお前と遊んでようと思ってたんだけどな」
そう言ってニヤッと笑った政宗は、私の手を取って歩き出そうとする。
「やっ…待ってっ…私、まだ気持ちの整理が…まだ…会いたくない…会えないよ」
「朱里、お前は色々考え過ぎだ。信長様に言いたいことがあるんなら、我慢せずに言ったらいい。
お前の我が儘なんて、信長様からしたら可愛いもんだ」
政宗は私の制止を無視して、繋いだ手をぐいぐいと引っ張りながら玄関先へと進んでいく。
引き摺られるようにして歩く私の足取りはひどく緩慢で、一歩一歩が鉛のように重かった。
どんな顔して会えばいいんだろう。
顔を見たら、責めるようなことを言ってしまうかもしれない。
自分の感情を抑えられる自信がない。
この廊下が永遠に続いていればいいのに…という私の儚い願いも虚しく、大股で歩く政宗は、あっという間に玄関先まで来てしまった。
「っ……!」
その場に佇んでいた信長様の姿に息を呑む。
全身からピリピリとした殺気を漲らせて立っていた信長様は、私と政宗を見てギロリと睨んだ。
(信長様っ…すごく怒ってる…)
全身から怒りの感情を放つ信長の姿に、なんと言って声をかけるべきか躊躇った朱里は、政宗に手を繋がれたまま立ち尽くしてしまっていた。
と、信長はいきなり刀をスラリと抜き放ち、その切先を政宗の顔の前に突きつけた。
少しでも動けば斬られる……抜き身の刀身からは、それ程の殺気を感じる。
「政宗、貴様、俺のものを勝手に城から連れ出した罪は重いぞ。
抜け、直々に成敗してくれるわ」
「へぇ…信長様自らお手合わせ下さるとは、光栄の至り」
「信長様っ…何をっ?政宗もっ…や、やめて!」
ニヤリと不敵に笑った政宗は腰の刀に手を掛けて、今にも抜こうとしている。
睨み合った二人の間には、痛いぐらいの殺気が漂っている。
信長様、本気で……?
政宗も……いつもみたいにふざけてるわけじゃないの……?
「やっ…いやっ、やめて!政宗は悪くないの、私が…私が無理を言って、自分でお城を出たんです。
政宗のせいじゃないっ…お願いっ、信長様っ!やめて下さい!」