第67章 秘密の宴
「こら、そんな暗い顔すんな。
確かに以前の信長様は、女は、来る者拒まず、って感じだった。
放っておいても女の方から寄ってくるし、欲を吐き出す為の一夜の相手なら誰でもよかったんだろうしな。
けど、お前と出逢ってから信長様は変わられた。
今の信長様は、お傍に数多の女が侍っていようが、お前以外の女は見えてない、って感じだな。
お前にだけだぞ、信長様があんなに露骨に感情を見せられるのは」
政宗の両の手が私の頬を包み込む。
暖かくて大きな手は私を安心させてくれる…けれど、政宗はぐっと顔を近づけて、唇が触れ合う距離で思いがけない言葉を囁いたのだ。
「ふっ…俺が今ここでお前に口づけたら……信長様はどうされるだろうな?」
「やっ…政宗っ?何言って…っ…やだっ…」
片手で腰を引き寄せられて、あっという間に腕の中に囚われる。
猛禽類を思わせる鋭い隻眼は、熱っぽく染まり私を見据えていて、目を逸らすことができない。
(こんな政宗、見たことない…っ…口づけるって本気なのっ?)
「っ…冗談、だよね? 揶揄わないで…」
「さぁな、冗談かどうか……確かめてみるか?」
指先で顎を掬われ、鼻先が触れるぐらい近くに政宗の顔が近づく。
「やっ…いやっ、政宗…やめて…」
顔を背けたくても強く押さえられていて背けられず…目を逸らすのが精一杯で…
(っ…やっ…信長様っ…)
知らず知らずのうちに心の中で信長様の名を呼んでしまっていた。
と、その時………
遠くから、廊下をバタバタと駆ける、慌てた足音が聞こえてきて、政宗がピクッと眉根を寄せた。
「ふっ…来たか…意外と早かったな」
「っ…えっ…?」
ニヤッと不敵な笑みを浮かべて、私を抱き締めていた腕を解いた政宗は、不意に、ちゅっと音を立てて私の額に口付けたのだった。
「やっ…なんで??」
「焦るお前が可愛かったから。ご褒美だ。信長様には内緒だぞ?」
「!?」
驚きで言い返せないでいると、襖がいきなり開いて、政宗の家臣の方が入り口で勢いよく平伏した。
「も、申し上げます、政宗様っ!の、信長様が…信長様がお越しでございます!」