第67章 秘密の宴
小鳥の囀る声が耳に届いて目を開けた私は、見慣れぬ部屋の様子をぼんやりと見回していた。
(…ここ…そうだ、政宗の御殿だ。私、無断で城を抜け出したんだった……)
遊女達に囲まれる信長様を見て、胸が引き裂かれるぐらいに苦しかった。
信長様は女性達に人気がある。
天下人という高い地位と整ったお顔立ち、男振りの良さに惹かれる女性は多い。
城の女中達や城下の娘達がいつも秘かに噂をし、熱い眼差しを注いでいるのは分かっている。
ただ、信長様は、同じく女性に人気がある秀吉さんとは違って、女性達に優しい言葉をかけたりはなさらないから、皆、憧れてはいるが近寄り難く、秘かに想いを寄せるばかりなのだ。
あんな風に…露骨に女性に触れられている信長様を見たのは、初めてだった。
『私の信長様に触れないでっ!』
口に出して言ってしまいそうなほどに、激しい嫉妬で我を忘れた。
自分の嫉妬深さと独占欲の強さを自覚させられてしまい、信長様と顔を合わせたらきっと、ひどく取り乱して、ひどい言葉を言ってしまいそうな気がして…衝動的に城を出てしまった。
(政宗にも迷惑かけちゃったな…でも、今は信長様には会いたくない)
重く沈んだ心のまま、褥を出て身支度を整えた頃、襖の向こうから声が聞こえた。
「朱里、起きたか?」
「あ、政宗?起きてるよ、どうぞ」
「おぅ、おはよう。朝餉の用意できたから持ってきたぞ。一緒に食おうぜ」
見れば、政宗の持つお膳からはホカホカと温かな湯気が上がっていて、食欲を唆られるいい匂いがしていた。
ーぐぅ
予想外に大きな音で鳴ってしまい、慌ててお腹を押さえるが…遅かった。
恥ずかしくて熱くなった顔を押さえてチラッと政宗を見ると、ニヤニヤと笑っている。
「っ…くくっ、腹の虫は元気そうだな、お前」
「うっ…だって美味しそうな匂いがしたんだもん」
「正直でよろしい。美味いもん食って心も身体も満たされれば、心のモヤモヤも少しは晴れるだろ」
「政宗…ありがとう」
朝の爽やかな空気の中で二人で向かい合って朝餉を頂く。
湯気の立つ温かい食事を前にすると、嫉妬で刺々していた心が少し丸くなっていく心地がした。
「朱里、食い終わったら城へ帰るか?送ってくぞ?」
「……………………」
「朱里〜?」