第67章 秘密の宴
着替えと化粧道具など、簡単な荷物を持って、政宗と一緒にこっそりと城を抜け出した私は、そのまま政宗の御殿へと向かった。
政宗の新しい御殿には、先日の戦の後に一度行ったことがある為、私を信長様の妻だと知っている家臣の人達は、政宗と一緒に帰ってきた私を見てひどく慌てていた。
(うっ…気を遣わせて申し訳ないです…)
「朱里、茶でも飲むか?」
私を客間に案内してくれた後、政宗はお茶を淹れてくれた。
ほわほわと暖かい湯気が上がるお茶を少しずつ飲んでいると、身体の奥から温まってくるような気分になる。
「政宗、ごめんね…ありがとう」
「おう、今日はもう寝て、明日またゆっくり考えろよ。
まぁ、本当は早く帰った方がいいんだろうけどな……家出、なんて、たった一晩でも、信長様が許すとは思えねぇからな…」
「っ…家出、か…」
自らの意思で信長様のお傍を離れたのは、これが初めてだった。
無断外泊だって、もちろん初めてだ。
私が城内にいない、と知ったら…信長様はお怒りになるだろうか。
政宗や光秀さんが、私のせいでお叱りを受けるようなことにだけは、ならないようにしないといけない。
その夜は、眠りに落ちてすぐに、遊女達と戯れる信長様の夢を見てしまい、その後はなかなか寝付けなかった。
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深夜遅くまで続いた宴が終わり、信長が天主へと戻ると、静まり返った室内は暗く冷え切っていた。
「……朱里?」
半ば諦めつつも、寝所の襖を開けながら愛しい女の名を小さく呼んでみるが、案の定、そこにはその姿はなかった。
寝台の上には、朱里の白い夜着がきちんと畳まれて、自分の夜着の隣に並べて置いてある。
ここ数日は政務が忙しく、朱里とはすれ違いの生活だった。
夜更けに政務を終えて戻ると、待ちくたびれた朱里はいつも、小さく身体を丸めて眠っていた。
その少し裾を乱した夜着姿で無防備に眠るのが、堪らなく可愛くて何度も手を伸ばしそうになっていた。
その我慢も今日で終わる。
明日から年明けまでは、思う存分、朱里を甘やかしてやろう……宴の間中、そんなことを考えながら、酒を注がれるままに次々と干していた。
遊女達が、己にすり寄ってくるのも、心底どうでもよかった。
身体をあちこち触られても何とも感じなかったし、艶めかしく着物を着崩した女の肌を見ても冷静だった。