第67章 秘密の宴
広間を出て政宗と一緒に自室へ向かう朱里の足取りは重かった。
「…朱里、大丈夫か?」
「ん、ごめん、政宗…宴、途中だったのに私のせいで……」
「はっ、気にするな、そんなこと。宴なんざ、いつでもできる」
「……政宗、私、今宵の宴のことは理解していたつもりだったの…でもっ、他の女の人が信長様に触れるのを見たら、耐えられなくてっ…」
「朱里、信長様は宴の主催者だ。皆の手前、呼んだ遊女達を無下にも扱えない。男には男の付き合いってもんがあるからな。
女の方も、たとえ一夜限りでも天下人のお手付きになりたい、って輩ばかりだ、信長様の関心を買おうとあの手この手で迫ってくるさ」
「っ……」
分かってる…政宗の言ってることはきっと正しい。
それでも…頭では分かっていても、心が付いていかないのだ。
自分がこんなにも嫉妬深いとは思わなかった。
信長様のことになると、私はどんどん欲深くなる。
いつの間にか自室の前まで来ていたようだ。
宴が終わったら、信長様は天主に戻られる。
私が天主にいなかったら、この部屋まで迎えに来てくれるだろうか。
私は……どんな顔をして会えばいいのだろうか。
(嫉妬に塗れた、こんな顔を…信長様に見られたくないっ……)
「っ…政宗っ!」
「??」
私を送り届けて、来た廊下を戻ろうと背を向けた政宗の、羽織の端を咄嗟に掴んで…呼び止めてしまっていた。
「朱里?」
「政宗…私っ……信長様に…会いたくない…会えない、どうしよう……こんな気持ちのままじゃ…」
暫くの沈黙の後、政宗は、はぁ〜っと大きな溜め息を吐く。
「仕方ねぇな……取り敢えず、俺んとこ、来るか?
城には居たくないんだろ?」
「ん……」
「じゃあ、荷物、適当に纏めとけ。光秀に言ってくるから…」
「…光秀さんに?何で??」
「馬鹿、信長様に今、正直に言ったら、全力で阻止されるぞ。
あの方のお前への執着っぷり、分かってんのか?
秀吉は信長様に嘘は吐けねぇし……光秀なら上手くやるだろ?」
「あ…うん……」
光秀さんに事情を説明する為に広間へと戻っていく政宗を見送ってから、部屋で荷物を纏める。
(信長様、ごめんなさい。
本当は、貴方と離れたい訳じゃない。
少しだけ、一人で考える時間が欲しいだけ。
今、顔を合わせたら、きっとまた私は貴方を責めてしまうから……)