第67章 秘密の宴
「……貴様、こんなところで何をしている?」
足元から崩れ落ちかけていた私の身体を、腕をギュッと掴んで支えてくれたのは……いつの間にか座を立ち、私の目の前に来ていた信長様だった。
その表情は固く、眉間に深い皺を刻みながら、冷たく凍った氷のような視線を向けられる。
突然のことに、ただでさえ混乱していた私の頭は、益々混乱を深めてしまったようで…信長様の問いかけにも直ぐには答えられずに、呆然とその顔を見つめるばかりだった。
「……朱里、答えよ。
貴様、何故ここにおる?
先に休め、と言っておいたはずだぞ」
「あ、あの…私っ…」
(なんて答えたらいいんだろう…信長様、怒ってる……?)
信長の口調に、戸惑いと僅かな怒りの色を感じて、朱里は呆然と立ち尽くすしかなかった。
「っ…朱里っ!」
要領を得ない朱里の態度に、痺れを切らした信長が声を荒げると、その低く重みのあるよく通る声に、一瞬、広間の喧騒が止んだ。
しんっと静まり返った後、ヒソヒソと皆が声を潜めつつこちらの様子を窺っているのが分かり、居た堪れなくなった私は、その場から早く逃げ出したかった。
「………離して」
出たのは、今にも消え入りそうな小さな声だった。
「は?」
「っ…離してっ!信長様の嘘つきっ……」
「なっ…貴様っ…何をっ」
腕を掴む手にグッと力が篭る。
「っ…痛っ…」
「お、御館様っ…落ち着いて下さい。朱里も…ここじゃゆっくり話もできないから、場所変えようか?な?」
騒ぎに反応して、いつの間にか秀吉さんまでもが傍へ来ていて、信長様を抑えようと必死になっている。
広間の中では、家康や三成くんも自席から気遣わしげな視線をこちらへ寄越している。
信長様は私の態度に苛々しているのか、秀吉さんに宥められて腕は離してくれたものの、怒りを抑えようとギリギリっと歯を食い縛っている音がする。
「政宗、悪いが朱里を部屋へ送ってやってくれ。
御館様、宴へ戻りましょう……皆が気にしております」
信長は、宥める秀吉をジロリと睨め付け、チッと聞こえるように舌打ちをする。
それでも場の雰囲気を慮ってか、それ以上何も言わず、荒々しい足取りで広間の中へと戻って行く。
(信長様……)